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誰にとっても失敗は怖いもの。「できることなら挑戦せず、現状維持でいきたい‥…」と考える人は、決して珍しくないだろう。本特集では、現役の自治体職員が経験した“しくじり”と、そこから得た気づきをご紹介。
今回は“行政改革”がテーマ。自治体の業務効率化を進め、住民サービスの質を高めるために欠かせないため、その必要性は広く認識されている。ただ、他部署との連携が不可欠な業務ゆえに、庁内で複雑な状況を招くことも少なくないという。行革部署で実際に庁内の反発を受けつつも、その経験を通じて多く学びを得た安部さんに当時の様子を伺った。
※掲載情報は公開日時点のものです
良かれと思って提案したが、猛反発を招く。
――安部さんの“しくじり”は、行革に関することだそうですね。
行政改革部門の担当者だったときの話です。他自治体の成功事例に魅力的なものがあったので、行政改革を主導する立場として「これは推進したい」と思い、事業所管課へ改革を促したのですが、現場の事情もあって実現に至りませんでした。
結果としては“反発を招いてしまっただけで何の成果も得られなかった”ということです。
――改革の内容そのものに、理解が得られなかったということですか?
そこは複雑なんです。他自治体の事例を直輸入して一方的に「やろう」と言っても反発にあうことは多い。なぜなら、原課の職員は自分の仕事にプライドをもっているし、業務を理解していない人からとやかく言われたくないという気持ちがあるからです。
しかし、違った角度から見ると、現在のやり方に安住しているということにもなり得ます。行革の仕事は、いわば“北風と太陽”です。頭ごなしにいくと身構えられる。
でも相手の気持ちになって「こうすればラクになる」と提案すれば理解してくれる。あるいは「今後訪れるリソース不足に備えて改革するなら今です」と促せば動いてくれる。そんなことを学びました。
失敗の経験で、アプローチ法が身についた。
――でも、庁内で仲間を増やしていくのは大変な気もします。
そこは、いわゆる「2:6:2の法則」が有効かもしれません。意欲のある2割と、変わらない2割、そして中間層の6割という考え方です。
みんな、地域の未来に向けて“変革が必要”ということは理解している。しかし、現状維持のまま居酒屋で愚痴っていても何も変わりません。アクションが必要だと説いていくと、意欲的な2割は動きはじめる。その影響で中間層の6割の中からマインドの高い人たちが動き出す。そうした人たちが多数派になれば成功です。
――そのプロセスの中でハードルはありますか?
行革部門は管理部門なので「現場を分かっていない」と言われることもあります。その壁を越えるためには工夫が必要です。
以前その課に所属していた人にアドバイスをもらうというのもテクニックの1つだと思います。また、事前に調査をかけることが多いですが、その段階でキーパーソンを見つけることも大切。
行革部門からアプローチがあった際に、「ただの調査」と受け止める人と、「何かを変えるためにアドバイスしてくれるんだ」と捉える人とがいます。それを見極め、キーパーソンを見つけてアプローチするのも有効だと思います。
嫌がられるなら、こちらから歩み寄る。
――そうした考え方でアプローチすればうまくいきそうですね。
そう簡単にはいきません。そもそも、行革の提案は“全て嫌がられる”と考えておいた方がいいんです。原課は、よそからいじられること自体が嫌でしょうから。だからといってそのままでは何も改革できないので、色々な手段を考えます。
まず、どの部署もリソースが足りていないから目の前の仕事で手一杯です。ならば、先例調査をしておく、必要なツールなどをこちらで準備して相手の手間を減らしておく。すると「そこまでやってくれるなら」と動いてくれます。
――歩み寄りの姿勢ですね。ほかにどんな方法がありますか?
私は“行革相談”というものを始めました。「この仕事に手間がかかるので何とかしたい」など、なんでもいいから相談してください、一緒に考えましょうという窓口を設け、庁内イントラの掲示板で知らせました。
令和4年度には32件の相談が寄せられました。相談があればこちらから出向き、膝を突き合わせて耳を傾けます。それに加え、千葉市では、課長以上の人事考課において“改善・改革をしたらプラス評価になる”という制度を導入しています。
生々しい失敗談の中にこそ、学びがある。
――職員同士で失敗談を共有するのは重要だと思いますか。
もちろんです。むしろそこが一番大事かもしれません。外から得られる情報は成功事例がほとんどで、綺麗な話ばかりです。でもそれを成し遂げるまでの道のりには、泥臭い挑戦や失敗があったはず。そういう情報を共有できた方がいい。自治体の仕事に一人で完結するものは一つもありません。ジチタイワークはチームワークですから。
私自身が実践していることとして、“1on1”ミーティングがあります。部内の課長たちと個々に定期的に話す場を設け、困り事などがあれば伝えてもらう。そして私からもアドバイスする。必要があれば失敗談も話します。
――自治体では、失敗を表に出したくない人が多いと思いますか。
そうかもしれません。しかし、失敗を含め、もっとコミュニケーションをとった方がいいと思います。私は年齢的に振り返ることが多くなったので「あの時はやらかした」という話も共有していますが、失敗とリカバリー方法を学ぶのは大切です。
ちなみに、私が行革部門の部長職にあった頃には、「改善・改革NAVI」(下図参照)というものを発行していました。業務や生活の中で目にした「?」や「!」を職員に共有し、気づきを促す目的で、A4サイズ1ページにまとめたものです。こうした発信で、「2:6:2」の上にいる2の層を、3、4……と広げていければと思っていました。
時代を読む 【改善・改革NAVI vol.1】
皆さん、まだまだ暑い日が続いていますが、お変わりありませんか。
さて、これから改善・改革のヒントとなる情報を月1回発信し、皆さんと共有したいと思います。お気軽にお付き合いいただければ幸いです。
* * *
ところでこの夏、皆さんは旅行に行かれましたか?
そのとき、旅行代理店へ足を運んで申し込みましたか。旅行サイトで申し込まれた方も…………
偉人・先達が残した言葉を胸にとどめよう。
――「失敗したくない」という職員に向けてメッセージを!
まず1つ目はエジソンの言葉で、「成功の反対は失敗ではなく、挑戦しないことである」というものです。この発明王は「私は失敗したことがない。1万通りのうまくいかない方法を見つけただけだ」とも語っています。失敗は経験になり、次にそれをしなければいい。こう考えていけば、ヘコまなくて済みます。
もう1つ、公務員は全力で職務にあたっていれば、失敗してもクビにはならないということ。もちろん、だからといって現状に安住しないでほしい。
そして最後、私の小学校の恩師からいただいた言葉で、「『誰でもいいからこれをやって』ではなく『あなたにしかできないからこれをやってほしい』と言われる人間になりなさい」というものです。この言葉は今も自分の中で響いています。
言われたからやるのではなく、自分でクリエイトした方が充実した人生なのではないか。そのためには失敗することもあると思うが、それもキャリアの一部。そんなマインドが大切だと思います。40年ほど働くわけです。ということはある意味人生そのものです。退職の日に庁舎を振り返り、「私は皆とこれをやった」と思える自分であったなら、きっと幸せですね。
【編集室レポート】千葉市の「CHIPS!」改善発表会に潜入!
令和6年12月25日、安部さんが所属する市民局で行われた「CHIPS!」改善発表会に、WEB編集室の宇田川が参加。クリスマス当日とあって、発表者はトナカイのカチューシャをつけるなど、楽しい雰囲気が演出され、会場は大いに盛り上がりました。
「CHIPS!」は「CHiba-city Improvement for Public Service!」の略称で、千葉市独自の業務改善運動。事務効率化や市民サービス向上を目指すだけでなく、改善活動を通じて職場内のコミュニケーションを活性化し、職員の改善意識を高めることを目的としています。
今回発表されたのは5つのアイデア。「メールのあいさつ文の定型登録」や「会議やレクの時間管理モニターの設置」など、すぐに活用できる実践的な取り組みが多く見られました。最優秀賞を受賞したのは文化振興課の「魔よけの札」。
他課が担当する埋蔵文化財に関する問い合わせを効率化するため、従来チラシをコピーして渡していたものを、何課が何を担当しているかを明記した案内を用意。その結果、月に3~5回ほどあった問い合わせが年1回程度に減少したといいます。
このような取り組みを通じ、千葉市は職員の主体性と市民サービス向上を両立させているそうです。今後も、同市の改善事例に注目していきます。