公務員アワードとは?
毎年夏にHeroes of Local Governmentが開催する「地方公務員アワード」。自治体職員が「本当にすごい!」と思う他の職員をノミネートする。2018年は活躍する自治体職員が審査し12名を表彰、全国にその実績を紹介した。そのうち、ジチタイワークスが注目した2人に話を伺った。
第二弾は神奈川県川崎市経済労働局 イノベーション推進室 創業・知財戦略担当 課長 木村佳司さん。
神奈川県川崎市の職員が実際に中小企業に足を運び、経営課題の解決や企業の強みを見つけ出す取り組みが、「川崎モデル」と呼ばれ注目されている。企業や他の自治体とのネットワークをつくり上げた木村佳司さんの、中小企業支援に奔走するその原動力とは。
※下記はジチタイワークスVol.4(2019年1月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
「経営者の役に立ちたい」という思いを原動力に
「川崎モデル」とは、産・学・官による顔の見えるネットワークを活かして中小企業を支援する事業です。市職員がパイプ役となり、経営者の悩みや相談に応じて、公的支援やビジネスパートナーなどを紹介します。事業の一環である「出張キャラバン隊」では、川崎市役所や川崎市産業振興財団などから成る4~5人1組のチームをつくり中小企業を訪問。職員に加え、専門的な知識を持つコーディネータなどを交えた支援チームで、公的支援の活用提案やビジネスマッチング、経営課題解決の助言をしています。
今から20年ほど前、下請型の中小企業は海外企業の台頭や親企業の海外移転などで厳しい経営環境に置かれていました。市では業績が低迷する中小企業にどのような支援ができるかを考え、経営者のもとを実際に訪れるようになったのです。
大事なのはFace to Faceのコミュニケーション
企業の現場に赴き、経営者の生の声を実際に聞くことで「サポートできることは何か」考える。こうした企業訪問を重ねて「顔の見えるネットワーク」をつくり続けてきました。大切にしているのは「現場力」。企業の生の声に耳を傾け、企業と企業、企業と大学などを連携させ、大きなネットワークをつくっていく。
私は経営者のもとを訪れるとき、その場の空気感を大事にしています。始めから売上や利益を聞き出したりしては、経営者も警戒してしまいます。時には経営者の趣味や出身地などの話をしつつ、経営課題を打ち明けやすい雰囲気をつくりながら、その場で少しでも解決につながる情報を提供できるよう心掛けています。
地域の活性化に必要なのは、目の前の人を喜ばせようとする心
私は出張キャラバン隊の一員として、これまで何千社という企業を訪問しました。突然の訪問に、「間に合ってます」と断られることもありましたが、「何か役に立ちたい」という気持ちを経営者にしっかり伝えることで受け入れていただき、中小企業に寄り添った伴走型の支援を通じて信頼関係の輪を広げてきました。私たちのような役所で働く人間は、全体の奉仕者であることが大前提。しかし、たった一人の、あるいは一企業のことすら満足に支援できない者が、地域全体の振興などできないと考えます。
ネットワークの広がりとともにビジネスマッチングの機会が拡大し、今では年間100件を越えるマッチング成果が生まれています。その中には国家プロジェクトに進展し、海外展開へとつながる連携プロジェクトもあるのです。川崎市がハブとなり、中小企業、大企業、ベンチャー企業が双方向で地域を越えて連携し、川崎から次々とオープンイノベーションの取り組みを創出していきたいと思っています。
HOW TO
1.企業との信頼関係を築く現場主義
職員が実際に企業現場に行くことで公表データではわからない生の情報を得ることができる。
2.能力を互いに補うチーム力
「出張キャラバン隊」は、4~5人1チームで活動する。一人では対応できない案件も個々の専門性で補い、即時に問題対応できる。
3.顔の見えるネットワーク
現場主義で直接顔を合わせ、企業と信頼関係を作る。その信頼関係がどんどん広がっていくことでビジネスマッチングの機会が広がる。
PROFILE
昭和42年生まれ。東京都東大和市出身。大学卒業後、都内の信用金庫勤務を経て、平成6年に川崎市役所に入庁。平成10年に中小企業診断士の資格を取得。中小企業指導センター(後に中小企業支援センター)、企画課、川崎市産業振興財団(派遣)、工業振興課などで一貫して中小企業支援業務に携わる。