システムをプログラミングなしで構築できる“ノーコード・ローコード開発”の分野で、支持を集めているサイボウズ。
自治体でもその名を聞く機会が増えたが、同社代表・青野さんの目に、今の自治体DXはどう映っているのか。率直な意見を聞いた。
※下記はジチタイワークス特別号(2023年3月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]サイボウズ株式会社
青野 慶久(あおの よしひさ)さん
サイボウズ 代表取締役社長
愛媛県今治市出身。大阪大学工学部卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て1997年にサイボウズを設立。2011年から事業のクラウド化を進めつつ、3児の父として3度育児休暇を取得し、総務省・内閣府などの働き方変革アドバイザーを歴任。SAJ(ソフトウェア協会)副会長も務める。著書に「チームのことだけ、考えた。」(ダイヤモンド社)など。
コロナ禍で必要性が高まった業務システムの迅速な導入。
現在、約220※の省庁・自治体が貴社製品である「kintone(以下、キントーン)」を利用していると聞きました。これだけ浸透したきっかけは何だったのでしょうか?
様々な要因があるのですが、一番大きいのは新型コロナへの対応です。感染拡大に伴って自治体の業務はひっ迫し、それを補完するために新たなシステムを迅速に構築しなければならなくなりました。対象もワクチン接種や助成金の支給、飲食店対応など様々。状況が目まぐるしく変化する中、ベンダーにゼロから依頼しての開発では全く間に合いません。
そこで、複雑なプログラミングなしで職員がシステムを開発できる、ノーコード・ローコードツールに注目が集まったのです。その中で当社のキントーンを活用し始める自治体が増え、私たちも自治体業務の負担軽減に向けて全力で支援しました。
※令和5年2月時点
そもそも、キントーンの誕生には、どんな背景があったのですか?
当社は企業向けグループウェア製品の開発・提供から出発していますが、以前はお客さまの要望に合わせてバージョンアップを繰り返していました。しかし、項目を増やしたい、モバイルでもデータを見たい、あれも、これも……と細かな要望は途絶えなかった。お客さまの業務は我々の想像よりもはるかに多様なのだと、あるとき気づいたんです。
改修を繰り返せばプログラムは重くなるし、バグも起きやすくなる。機能が肥大化して、結局使いにくいものになってしまいます。お客さまの多様性に応える方法は、この延長線上にはないと考えました。
そこで逆転の発想として、お客さま自身でシステムを構築・運用・メンテナンスできる製品をつくろうと動き出したんです。専門知識がなくても、直感的な操作だけで簡単にできるようにと開発を進め、そうして生まれたのが、キントーンですね。
kintone(キントーン)とは?
プログラミングなどの専門知識がなくても、ドラッグ&ドロップといった簡単な操作で、職員自らが業務用システムを開発できるツール。キントーン内でつくったシステムをアプリと呼ぶ。
自治体間の成功事例の波及スピードは、民間を超えている!
民間・自治体の双方をサポートされていますが、両者で何か違いはありますか?
自治体は民間に比べてIT化が遅れていると指摘されることもあります。しかし私は、自治体には民間より優れた点がたくさんあると考えています。その一つが、自治体職員の方々のもつ“パブリックマインド”。住民のために、という共通の考えをもっているんですね。そのため、コロナ禍では新しくつくった業務アプリを自治体間ですぐに共有する動きが見られたんです。成功事例の横展開が猛スピードで進む様子は、衝撃でした。
というのも、このような動きは民間ではほぼ起こらないんです。企業間は競争関係ですから、自分たちのノウハウを他社に無条件で提供するなんて、基本的にありえません。たとえIT化で出遅れた感があったとしても、こうした強みを活かせば、全国の自治体が一気に変わる可能性がある。むしろ民間よりも早く、DXを実現できるのではとワクワクしています。
なるほど、横展開しやすい環境が整えばさらに加速する可能性がありますね。
そう思います。さらにクラウド型システムの場合は、小さな村や離島でも最新バージョンをすぐに使うことができますよね。都市部の業者や他自治体ともオンラインで直接やりとりできますから、新たなノウハウも取り入れやすくなりました。これまであった都市部との格差が縮まり、今後は地方行政がもっと面白くなるだろうと期待しているところです。
ベテラン世代を巻き込んで知見を活かすことがカギ。
とはいえ、DX推進担当者が孤軍奮闘しているという話をよく聞きます。現場を巻き込むコツはあるでしょうか。
神戸市に興味深いエピソードがありました。同市では歯科衛生士を市内各所に派遣する事業があり、歯科衛生士たちのスケジュール調整をキントーンでオンライン化したんです。担当職員は当初、“うまく運用できるだろうか”と懸念していたそう。しかしそんな心配をよそに、定年間近の方々も次第に使いこなすようになり、もっと改善したいと提案まで返してくれるようになったそうです。その好事例を庁内で紹介したのを一つのきっかけに、全庁的な業務改善が加速したといいます。
というのも、実際に業務をより深く知っているのは、こうした中堅・ベテラン世代。この層を巻き込めるかどうかが、日本のDX成功のカギだと考えます。
ベテラン世代、手ごわいように思うのですが、どのように巻き込めば?
“使いにくいところはないですか”と要望を聞いて、うまく反映することです。“もう少しこの入力欄を大きくしてくれ”とか、“ここは入力順序を逆にした方がラクなんだけど”とか、ちょっとしたことでいいんですよ。この世代は、システムとは使いにくいもので、それが当たり前だと思っています。
だから、誰かが一歩寄り添ってくれて、自分のアイデアを取り入れてくれるなんて、これまで経験のないこと。自分の知見が反映されて便利になればうれしくなるし、もっとアイデアを出してみよう、みんなにも使ってもらおうと思うでしょう。地道な方法ではありますが、ぜひこの世代を切り捨てずに進めてほしいです。
ベテランならではの細かい配慮の利いた、いいシステムができると思いますよ。
仲間とDXを加速させれば住民に喜ばれる仕事ができる。
全国で奮闘しているDX担当の皆さんに、ぜひエールをお願いします。
これからは、課題に直面したときに自分たちだけで解決策を探すより、庁内・庁外に仲間を見つけてつながり合ってほしいと思います。同じ境遇の人や、悩みを克服した人は全国に大勢います。そうした人たちとアイデアを交換し、チャレンジを繰り返す先に、答えが見つかっていくはず。成功確率もスピードも、格段に上がっていくはずです。
自治体には“住民のため、地域のため”という気概をもって入庁した人が多くいますよね。今は目の前の業務に追われているかもしれませんが、DXを進めていけば、圧倒的に効率化できます。そうなればもっと住民に喜ばれる仕事、皆さんが胸を張って誇れる仕事に注力できると思います。
私たちも引き続き支援していきますから、ともに頑張りましょう。
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