ジチタイワークス

宮崎県都城市

住民の安心・安全と業務効率化の両立を実現した「デジタルケア避難所」の構築

激甚化・頻発化し、また新型コロナウイスルへの対応も求められる避難所。宮崎県都城市では、住民の安心・安全と業務効率化を両立する避難所管理システムとして「デジタルケア避難所」を構築した。

避難所の管理運営をデジタル化することにより「書かない入所」を実現し、また入所に際して様々な手段を用意することでデジタル弱書も含め「誰一人取り残されない」よう配慮した同市の取り組みの詳細を紹介する。

※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2022」の応募事例から作成しており、本記事の内容は全て「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。

背景・目的

防災白書にも記載されているように、災害が激甚化・頻発化しており、避難所の開設回数や避難者数も増えていく傾向にあります。また、新型コロナウイルスへの対策から、避難所の定員を制限せざるを得ない状況も広がっており、特定の避難所に入ることができない状況も発生しています。

避難所開設回数が増えていることに加え、これまでなかった消毒対応や体調確認等の避難所事務の増や救援物資の種類が増えていること等による物資管理の繁雑化、満員の場合の空き避難所の確認・案内等により、避難所運営について、災害対策本部および避難所の事務負担が増加しています。

結果として、住民が入所する際に行列ができ、待ちが生じてしまう等の事象も報道等では目にするところであり、住民・職員共に効率化が必要でした。

 

取り組み事例「住民の安心安全と業務効率化を両立!~新しい避難所の形を体現したデジタルケア避難所の構築~」

都城市ホームページ | デジタルケア避難所構築事業に取り組んでいます

 

取り組み期間

令和3年度~(継続中)

 

取り組みの内容

激甚化・頻発化し、新型コロナウイルスへの対応も求められる避難所の管理運営をデジタル化することにより、住民の安心・安全と業務効率化を両立するために、避難所管理システムとして「デジタルケア避難所」を構築しました。

避難所の入所に際し、以下3つのチャネルを用意することで、「書かない入所」による時間削減を最大80%実現しました。

①運転免許証やマイナンバーカード等の身分証を写真撮影することによるOCR読み取り
②マイナンバーカードのICチップ読み取り
③避難者が事前登録したデータを二次元コード化し読み取り

なお、どれにも当てはまらない避難者についても、口頭聞き取りからの登録を実施することで、書かない入所を実現しています。

避難者情報については、これまで電話や無線等で伝えていたことから、災害対策本部および避難所でそれぞれムダな工程が生じていましたが、本システムにより、登録情報を災害対策本部および避難所で共有できるようになっており、当該工程を丸ごと効率化することができています。

救援物資についても、在庫を自動的に災害対策本部と連携し、1日の消費量や消費期限等を加味した上で、今後の需給予測もシステム内で行うことができるため、避難所の職員が計算することなく、救援物資の追加等を災害対策本部が即時に判断できるほか、避難所間での物資のやりとり等も簡易に行えるようにしています。また、国の物資調達・輸送調整等システムともデータ様式を合わせ、入力の手間を増やさない配慮もしています。

さらに、避難所の定員に対して何人が入所しているのかをネット上で公開し、避難所の混雑状況をリアルタイムに住民に可視化することで、住民を空いている避難所へ誘導できます。近年は、コロナ対策として避難所の定員を減らしていることもあり、空き情報の公開の要請も高まっております。電話での問い合わせ対応も多かったことから、業務効率化にも役立ちます。避難人数等を定点観測しHP等にそのまま公開することで、マスコミ等への情報提供も省力化する機能も実装しています。

システムについては、当市を含む7自治体で実際にデモ等も重ねながら意見を集約し、アジャイル型で開発しながら機能面および費用面で大きな効果を創出しました。都城市のみのガラパゴス型の開発ではなく、他自治体との共同利用を志向したデジタル社会に即した開発スタイルであり、現在も多くの自治体からの問い合わせが来ております。さらなる機能強化についても自治体間の意見調整の上、行っていく予定です。

なお、要望に対しては、システムのみでの対応とせず、避難所運営業務フローの改善等も協議できるよう自治体間での意見交換も定期的に実施しています。

本取り組みは民間事業者との実証事業としてスタートしましたが、システム構築の途中で、混雑状況の可視化にかかるノウハウを持つ企業が参画、また他自治体も次々と参画を決定する等、官民における広がりを見せています。

 

取り組みを進めていく中での課題・問題点(苦労した点)

様々な手段を確立することで、誰一人取り残されないデジタル化を実現したが、それぞれの手段共に住民サービスの向上および業務改善につながるような工夫を取り入れています。

複数自治体(7自治体)の知恵を結集しましたが、必要な機能要件を決定するために、システムのみの協議ではなく、業務フローに関する協議も必要となりました。しかし、これは根本的な避難所管理運営の業務改善にもつながっています。複数自治体との意見のすりあわせにおいて、コンパクトな機能設定を志向しています。

 

特徴(独自性・新規性・工夫した点)

都城市はマイナンバーカード交付率が8割に迫る状況ではありますが、マイナンバーカード非保有者がいること、また必ず携行する者ばかりではないことに配慮し、マイナンバーカードのみの対応とせず、複数の手段を用意することで、デジタル弱者も含め「誰一人取り残されない」を実現しています。

開発段階から7自治体が関与するなど汎用性があり、横展開が可能なシステム構築を志向するとともに、システム要件を定義する段階で複数自治体の知見により事務フローの見直し等にも取り組むことで、システムのみに頼るのではない業務改善を実現しています。

マスコミ用の公表データ自動集計機能や国システムとのデータ様式を合わせた連携も可能とし、さらなる業務改善を実現していきます。

実証事業として民間事業者との協創をスタートしましたが、システム構築の途中で、混雑状況の可視化にかかるノウハウを持つ企業が参画、また他自治体も次々と参画を決定するなど、官民における広がりが一つの特徴です。

 

効果・費用

書かない入所により、最大80%の時間的削減効果がありました。通常は入所手続きに2分程度必要になるところ、

①【身分証OCR読み取り】36秒へ70%削減
②【マイナンバーカード読み取り】30秒へ76%削減
③【二次元コードの読み取り】24秒へ80%削減

なお、口頭聞き取りは50秒へ68%削減を実現しました。

都城市の一次避難所においては、総定員平均削減率70%を期待値として計算しても、全避難所が満員となったと仮定した場合、約57時間の削減を実現しています。(※実績より避難世帯員数平均1.7人として計算)

災害対策本部には避難所との避難状況および救援物資等にかかる連絡調整員として4名の業務量を想定していましたが、業務量は1名未満となります。加えて、避難所側の伝達時間の削減も大きな効果でした。

住民からの避難所空き状況の問い合わせやマスコミからの避難状況問い合わせ対応にかかる時間も削減、さらには避難所対応職員の引き継ぎも本システムで行うため、現場における引き継ぎがほぼ不要となりました。住民の空き避難所への速やかかつスムーズな避難が可能となるため、命を守ることにも直結しています

またシステム開発費については、都城市単独であれば初期費用4,300万円、年間維持管理費用84万円の費用負担が必要であったものが、共同開発型のシステム開発としたことから、初期負担55万円で年間60万円の費用負担となり、都城市にとっては初期費用4,200万円強、年間24万円の削減が達成されました。

 

今後の予定・構想

大地震や噴火等の大災害が起こった場合の避難は、長期となることが予想されることから、短期避難から長期避難に切り替えて、様々な情報を管理できるよう機能強化を進める予定です。ホテルを避難所として利用するケースも増えていることから、避難所として活用されるホテルの混雑状況も可視化できるよう、地域を巻き込んだ取り組みに進化させたいと考えています。

また、トライアルを希望する自治体も多く、横展開が期待できることから、導入自治体で正式な協議会形式を組織し、本システムのみならず、避難所管理運営およびその周辺事務のさらなる効率化を検討していきます。

 

他団体へのアドバイス

デジタル化が進む中、単独自治体のみで利用するシステムを構築するのは合理的ではなく、他自治体との共同利用を前提とすることで、安価で持続可能なシステム構築が可能となります。

「デジタル化は目的ではなく手段!業務改善をデジタルのみで解決しよう」とするのではなく、BPR等の業務改善手法と並行してデジタル化を図ることによって、効果はより大きくなります。

 

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