毎年のように大規模な自然災害が発生している昨今、コロナ禍という新たなリスクも加わったことで、自治体の災害対策が煩雑化している。そんな中、佐賀市では災害備蓄品の在庫管理にオンラインシステムを導入し、全庁的な“見える化”に取り組んでいる。導入に至った背景や、その成果について聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.23(2022年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
49万点以上を紙ベースで管理しチェック体制の甘さも実感。
佐賀市では、災害備蓄品を約130カ所の倉庫・避難所などで保管しており、その物資の数は49万点以上にのぼる。これらの物資一つひとつを適切に管理することは市民の安心・安全に直結する責務だが、同時に人手や時間を多く取られる作業でもある。「以前から倉庫の管理を業者に委託し、年に2回棚卸しをしていました。しかし令和2年から、新型コロナウイルスの感染対策に必要な物資が62種類増え、計208種類になったことで、在庫管理がより煩雑になってしまったのです。そのため令和3年度は棚卸しのみ専門の業者へ依頼するなど、コストをかけざるを得ませんでした」と田嶋さん。
実際、令和2年に発生した台風10号の際は、想定していた場所に物資がないなどのトラブルも経験。「もともと、物資は全て課内のエクセルデータで管理しており、現場ではそれを印刷したものをチェックリストとして使用していました。紙ベースのアナログ管理では、倉庫から避難所、避難所から別の避難所への物資移動などをリアルタイムで反映することが難しく、記載漏れやミスが起きやすかったのです」。
このような状態を改善するため、コロナ対策事業の臨時交付金を活用してタブレット端末を導入。令和4年1月より、タブレットを使った在庫管理システムのトライアル運用を開始した。
エクセルからアプリへ移行して全職員が使えるよう周知した。
今回導入したシステムは、専用のアプリを使い、タブレットで物資の在庫状況を入力・確認する仕組み。パソコンの場合は、WEB上での使用も可能だ。同課が保有する89台のタブレット全てにアプリを入れ、担当課だけでなく他課の職員が操作することも考慮した。「89台あれば、指定避難所のほとんどをカバーできます。有事の際は全職員が災害対策に携わるため、誰がいつ、どの避難所でも対応できるような体制を整えていきたいです」と田嶋さんが言うように、担当課以外の職員も操作できるようにするための研修を実施している。
「マニュアルは用意していますが、タブレットやアプリになじみのない職員もいます。あまり複雑な仕組みにならないよう、入力項目を在庫の増減に絞ったことで、どんな人にも比較的使いやすいシステムになっていると感じます」。
在庫管理システム「KG ZAICO」で備蓄の状態まで“見える化”される。
さらに、避難所の物資情報を国と地方公共団体が共有するための「物資調達・輸送調整等支援システム(以下、物資支援システム)」との連携についてもメリットは大きい。「エクセルで管理していた情報を物資支援システムにアップロードする際、項目に違いが生じます。そのため手作業でファイルを作成し、アップロード後のデータの精査が完了するのに計8時間を要していました。在庫管理システムはCSV形式でのダウンロードが可能で、別の項目に入力し直す作業などがなくなり、5分で全工程が完了するまでに短縮されました」。
実際に避難所を開設する際に役立った“運用の容易さ”。
在庫管理システムの導入で、著しい成果が見え始めている同市。管理に要する時間の短縮だけでなく、“どこに・何が・いくつ”あるのかをアプリ上に入力することで在庫の把握ができるようになった。使用期限や消費期限も確認でき、棚卸し作業も効率化されそうだという。一度は専門業者へ委託した棚卸しを再度内製化し、外注コストの削減もできた。
また、システム導入後に起きた令和4年の台風11号、14号の際には、早速改善がみられたという。「物資の状況を先に把握できていたことが、スムーズな避難所開設計画の作成にとても役立ちました」。今後は、さらに把握が容易になるよう、保管場所の写真を撮影し反映させるようなアップデートも検討する。対応できる職員を増やすため、研修も拡充予定だ。市民の安心・安全を守るため、今回のシステム導入による成果の検証を重ねていくことで、さらなる“見える化”が進むことを期待したい。
佐賀市
総務部 危機管理防災課
田嶋 葉子(たじま ようこ)さん
今後は課題や反省点の洗い出しを行い、より良いものに高めていきたいと考えています。担当課だけではなく、全職員が把握できるメリットをもっと活かしたいですね。
課題解決のヒント&アイデア
1.リアルタイムの操作で常に最新の状況が分かる
物資の在庫管理をオンライン化し、専用アプリを通じてタブレット端末で操作。在庫の増減や、移動が発生した場合は、都度その場で入力することでリアルタイムに在庫状況を更新できる。
2.全職員が状況を把握でき、有事の対応が円滑に
担当以外の職員も、いつでも在庫を確認できるため、緊急時にも動きやすい。対応に柔軟性が生まれることで、実際に避難所を開設する際にスムーズな計画を立てることができた。
3.国の物資支援システムへのデータ反映が大幅に効率化
システム連携で、項目などが異なるデータもCSV形式でダウンロードし、移行できるようになり、手入力やデータの精査が不要に。時間短縮とともに入力ミスのリスクも減り、適切な物資支援を受けられる。