ジチタイワークス

【今村 寛さん】WEB限定 ジチタイワークス創刊5周年特別インタビュー 「5年前、5年後」。

福岡地区水道企業団総務部長。「自治体の“台所”事情 “財政が厳しい”ってどういうこと?」(ぎょうせい)の著者。

5年前(2017年)、何をしていましたか?

仕事では、中小企業振興にとって何が必要かを企業経営者や経済団体、大学などと語り合っていました。キャッシュレス推進、学生と企業との対話の場の創出、博多織777周年、商店街の若手人材育成塾など、思い出深い事業が次年度に花開いたことを思うと、まさに対話による仕込みの年でした。仕事以外では2014年に始めた出張財政出前講座が好評を博し、月2回のペースで各地を巡り、自治体財政にまつわるよもやま話を全国の職員の皆さんと語り合っていました。 そこで培った血肉が翌年の単著「自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと」の出版につながり、これもまた対話による仕込みの年でした。

5年前と今を比べて「(自治体・行政まわりで)変わった・進んだ」と思うことは?

自治体職員同士の横のつながり、ネットワークが格段に厚みを増し、活発化しています。 特にコロナ禍以降のオンラインミーティングの急速な普及により、地理的、時間的なハンデがなくなった影響は大きいと思います。ネットワークを活用する意欲のある自治体職員はどんどん情報を収集し、共有し、発信することで能力開発が行われています。 その反動として、そうでない職員とのギャップが顕在化し、能力のある職員の中には既存組織の中では飽き足らずに活躍の場を外に求めて中途退職する者も増え、公務員人材の流動化が進んだと感じます。

5年前と今を比べて「(自治体・行政まわりで)変わっていない・進んでいない」と思うことは?

公務員の資質として公平公正な仕事を間違いなくこなすことが求められる以上、保守的な面があることは否めず、その資質が邪魔をして新しい技術や社会変革への対応スピードは十分ではありません。 デジタル化による業務効率化やサービスの向上については、コロナ禍でこれだけオンライン化が進んだにもかかわらず、まだまだという感じです。 また、行政改革に比べて政治改革が進んでいません。これは民主主義の未成熟という側面が強いのですが、政治家が民意におもねる形で政策が形成されることで政策の質が向上しにくいというのが現状です。結果として成果も上がらず政治離れ、行政離れが起き続けていることは深刻だと感じています。

この5年のご自身の取り組みで思い出す「苦労したこと」は?

2020年以降のコロナ禍で、仕事やオフサイト活動で培ってきた人脈が途絶えかけたのはつらかったですね。2020年4月の異動でそれまで4年間在籍した経済畑を離れたことも災いし、せっかく手がけた事業やそこでの人脈をうまく引き継ぐことができず、頓挫してしまったものもあります。 また、年間20回以上出講してきた出張財政出前講座は年間計画を白紙に戻して無期延期しましたが、再開のめどが立たずに新しいオファーもたまる一方。期待に応えられないもどかしさが続きました。 結局、オンラインを活用した関係再構築で次のステージに踏み出せたものもありますので、従来の手法をリセットするところまでを含めた冷却期間だったと捉えています。

この5年のご自身の取り組みで思い出す「達成感を得たこと」は?

5年前、まさに対話による仕込みで2018年度以降に花開いた中小企業振興施策は、私の役所人生の中でも相当に手応えのあるチャレンジでした。 行政内部だけで政策を決めず、関係者との直接対話によって何が本当に必要かを見極め、関係者と一緒になって実施していく過程を通じて、立場の垣根を越えてビジョンやミッションを共有。互いに何ができるかをそれぞれが当事者として主体的に考えることの意義を改めて体感し、そのような関係性を構築できたことに最大の達成感を覚えました。 その体験がもととなって2冊目の単著「対話で変える公務員の仕事」(公職研)を2021年に上梓できたことは、望外の喜びです。

5年後(2027年)の地域社会や自治体、公務員に期待する姿とは?

多様な事象に対して万人が認める正解がない時代になり、個別に最適化を図っていくことがますます必要になってきました。 情報流通が双方向化、多チャンネル化し、社会の変化速度も上がる中で、行政と住民との距離、住民同士の関係性も変化。役所が決めたことを実施していくことだけでは、住民の幸せを実現できなくなっています。 この個別最適を限られた資源配分により実現するには、行政と住民、あるいは住民同士が対話により相互を理解し、互いに許容する社会を実現する必要があります。そのための対話インフラの整備(場や機会の提供、関係性の構築、心理的安全性の確保)こそが、これからの自治体職員に最も求められるスキルだと思います。

最後に、5歳になるジチタイワークスについてご意見・メッセージをお願いします。

ジチタイワークス創刊5周年、おめでとうございます。 全国にあまたある自治体の中から独自の取材力で時宜を得た先進事例を紹介し無料で配信するという取り組みに挑戦し、5年間続けてこられたことに感謝し、敬意を表します。今後は取材→発信という一方通行の流れだけでなく、取材を受ける先進事例の担当者と読者との双方向の情報交流や、特定分野の担当者同士の連携促進、読者同士のコミュニティ化、さらには官民連携のための意見交換、情報交流のプラットフォームづくりについても取り組んでいただければうれしいです。私たち公務員は、情報を消費する側から生産する側にいつでも立場が変わりうる存在ですから。

 

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