身の回りの片づけは心の片づけ。職場や家庭をスッキリすることで、効率アップ・自己成長・人間関係の改善など、片付けがもたらす効果は心理的にも効果がある。そんな職場や家庭の「日々を整える片づけ術」をテーマに、元・自治体職員で、現在はオフィス業務効率化コンサルタントとして活躍している長野ゆかさんに連載の執筆をいただいた。
シリーズ最終回の第5回目は「子育てと片づけのテクニック」について。お子さんへのかかわり方で家の中を整えるポイントやコツをご紹介いただく。仕事も家庭も多忙な毎日を少しでもラクになるように参考にしていただきたい。
子どもが片づけをしてくれたらどんなによいか・・・。多くの親御さんがそう思う一方で「教えてすぐにできるならこんなに困っていない」という現実。「自分も片づけが苦手なのにうまく教えられる気がしない、何かヒントが欲しい」というお母さん方、何百人という方とこれまで接し、アドバイスしてきました。
実はちょっとしたアプローチ次第で大きく変わる、お子さんの片づけ行動。今回は簡単なご相談がきっかけで、その後お子さん、お母さんの片づけに関して大きく変化のあった三つのケースをご紹介します。
Case.1 私も片づけが苦手。遺伝だからうまくいきません。
遺伝とおっしゃる方は、片づけの問題は自分の意志や努力で変えられないことであり、私たち親子は絶対に片づけられないと思っていらっしゃいます。また「実家がゴミ屋敷で、私も片づけが苦手なんです。だから子どもも無理ですよね」という話もよく聞きますが、もちろん遺伝ではありません。
親御さんが片づけ上手なら、そのエッセンスはいろんな形で子どもに伝わります。一方で親御さんが苦手なら、全く学べる機会がないため、子どもも片づけが苦手になりやすいというだけのこと。特に片づけは「どういうモノを、どんな風に、どれくらいの量を置くか・いつ手放すか」という人の考え方に大きく影響されます。そのため、親の思考や価値観の影響を受ける子どもの環境は、実家の状態と似た状態になりやすいのです。
こんな話をしたところ「子どもに片づけ力をつけたいなら、まずは自分が教えられるようになることですね。子どものためなら頑張れる」と、ご自身が片づけの学びをスタート。これまで何十年と片付けが苦手だった自分が変わりうまくいったことで「私でも、学べばできるようになった。だったら絶対大丈夫」と、逆にお子さんが片づけられないことを気にしなくなったそうです。こうなると、逆にお子さんが片づけることに興味を持つようになったというケース。子どものためだと思ったけれど、それも含めて自分のためになったと喜んでくださっています。
Case.2 いくら言っても、かばんすら片づけないのですが、どうしたらよいでしょうか。
「毎日毎日片づけなさいって言っているけどうちの子は、全く動きません。今後が心配です」とおっしゃっていましたが、これでは難しいですね。片づけなさいと何度も言うだけでは片づきません。なぜなら具体的に何をすればいいのか子どもが分からないからです。「いい加減にしなさい・ちゃんとしなさい」といわれても、どう行動すれば正解なのか分からない。「勉強しなさい」で学力が上がるなら、いくらでも言いますよね。
「片づける」の言葉は単純に「もとの場所に戻す」ことを示すことであると、子どもと共通認識を持つ必要があります。するともちろん、もとの場所がないモノは戻せないので、片づけることはできない。そのため親としては、1つ1つにもとの場所をつくるための準備をすることが具体的に一つ目のサポートとして必要なことも分かります。
こちらのお母さんは「幼稚園から帰ってきたら、かばんはここに置いてね。これでもとの場所だからお片づけ完了ね」と声を掛けたところ、翌日からきちんと決まった場所においてくれたそうです。たったこれだけのことに見えても「ずっと不安だったから涙が出た」とおっしゃっていました。さらには「うれしすぎてその様子をスマホで撮影している私を見て、子どもが、別の場所まで片づけようとしています」とのこと。「できない」のではなく「やり方が分かった」ことで解決し、そして「お母さんの喜ぶ顔が、片づけをやる気にさせてくれた」事例です。
Case.3 片づけられる子に育てるには、どうしたらいいでしょうか。
この質問には、たくさんの角度からお答えすることができるのですが、一つ意外と簡単でありながら親にとって難しいのが「?らないこと」です。子どもが片づけるとき、きっかけの1位が「親に?られたとき」という調査結果があります(ベネッセ 教育情報サイト)
片づけ=?られるでは、絶対にやる気にはなりません。嫌なことは誰もしないし、このままでは今後も片づけを、よい印象に変化させることも難しいでしょう。また、?られないために片づけるデメリット回避のためではなく「片づけは価値のあること・メリットを得るため」と子ども自身が理解し納得できるように、伝えていくことも親の役割です。
単純に楽しいと感じれば、ほうっておいても自発的に動きます。お子さんが「片づけをしたくなるサポート」は、ゲーム感覚で片づけをする―などのアプローチだけではなく、一つ目・二つ目の親の関わり方の事例からも分かるように、いろんな角度から可能です。
子どもの片づけには二つのアプローチ
お片づけのプロは収納技術面を教えてくれます。例えば先のかばんの収納場所を、子どもにとって戻しやすいスペースをつくる方法。これも大事なことです。かごを一つ準備して、そこに入れたら片づけ終了!ということにしたり、ぎゅうぎゅうに入っていたりすると、あふれ出て戻しにくいので8割になるようにモノの量を調整しておいたり。
収納技術は、ほんの少しのアイデアや工夫で、子どもがすぐに戻してくれるようになるため、アプローチとしてはもちろん重要です。
ただしもう1つ大事なことがあります。それは内面へのアプローチです。なぜもとの場所に戻すのか。「出したら戻すのは当たり前」と押し付けることは簡単です。そうではなく、次に自分が使うときのため、次の人が使うため。モノを大切に使うため。いろんな目的があり、伝え方があるでしょう。大人でも、片づけを学んだ後、最後までやり切れる方は、自分にピッタリとくる動機が見つかった方が多いことから、何のために片づけるのかという動機づけはやはり子どもに大事なのです。先のお子さんのように「お母さんの喜んでいる表情で片づけ始める」というのも内面のアプローチですね。
これまでたくさんのお子さんにかかわり、片づけ力の向上を拝見してきましたが、どのケースにも共通するのは親御さんが片づけに対してプラスイメージを持ったことでした。子どもの片づけ力に関しても親の関わり方次第です。一見遠回りに見えるかもしれませんが、お子さんのためだからこそ、まずは自分自身が正しく知る・学ぶこと。片づけを楽しく思える価値観との出会いを求めて、自分からできることをスタート・実践してみてください。
プロフィール
株式会社オフィスミカサ 代表取締役
長野 ゆか(ながの・ゆか)
大阪府生まれ、大阪府内中核市にて情報システム部門所属、15年勤続を経て独立。
現在は、文書(書類・データ)ファイリングを中心に、オフィスの環境改善・効率化などを指導。1か月で5.2トンの削減の実施。各社企業理念に沿った環境改善→業務改善(モノからコトへ)を促し、全体の業務効率アップを行う。
研修講師としては、オフィス向け(環境改善、接遇、ビジネスメール)から、家庭向け(ホームファイリング®・子育て・シニア片づけ講座)まで様々なテーマで登壇。大手企業、大学、弁護士会、自治体まで多数。述べ受講生は5,000名以上。プライベートでは、小学1年生から高校生までの3児の母。
保有資格
一般社団法人日本経営協会 情報資産管理指導者
一般社団法人ハウスキーピング協会認定 整理収納アドバイザー1・2・3級講師(全国24名) 他
著書
『実践! オフィスの効率化ファイリング』(DOBOOKS / 同文舘出版)