「将来のために資金づくりをしたいけど、何から手を付けていいのかわからない…」「資産運用したいけど、投資はちょっと怖い」…
元公務員で、現在は公務員専門のファイナンシャルプランナーとして活躍している岩崎大さんに、気になる「公務員のお金」について本企画。
今回は、「iDeCo」について執筆いただいた。
iDeCoは、「職業等によって掛金等に違いがある」という特徴があるという。公務員の場合はどうなのだろうか。以下見ていこう。
公務員のみなさん、iDeCo(イデコ)やってますか?
公務員のiDeCo加入が解禁された2017年1月。当時まだ自治体職員だった僕は、解禁の翌月に加入しました。当時は公務員にとってマイナーな存在だったiDeCo。解禁から5年が経過し、着々と新規加入者も増えているようです。
「現役公務員ですがiDeCoって始めたほうが良いですか?」という質問も、年を追うごとに増えてきています。家計状況や家族構成、年齢や価値観など、様々な要因によってベターな選択は変わってくるので、数式のように万人にとっての正解がないのが悩ましいところですね。
iDeCoを始めるべきか否か、自分にとっての正解を見つけるための材料集めをしてみましょう。まずは、なにはともあれ制度の概要把握が大切です。仕組みや税制メリットなど基本的な部分はiDeCo公式サイトで把握できますのでご覧ください。
この記事は自治体職員の方向けなので、元自治体職員のFPとして「公務員が知っておきたいiDeCoのポイント」にフォーカスしてお伝えしたいと思います。2023年度から始まる公務員の定年延長の影響もありますので、ぜひ最後までお読みください。
今回お伝えする項目は次のとおりです。
1、iDeCoは資産運用の1つ
2、公務員のiDeCo加入者の推移
3、公務員の定年延長とiDeCoの関係
4、公務員はiDeCoの掛金上限が最も低く設定されている
5、公務員が気をつけたいiDeCoのコスト
なお、改正予定の内容も含みますのでご留意ください。
iDeCoは資産運用の1つ
iDeCoとは、「個人型確定拠出年金」の愛称です。具体的には、英語表記である「individual-type Defined Contribution pension plan」の単語の一部から構成されています(覚えなくて大丈夫)。ちなみにこの愛称は2016年8月に募集され、応募総数4,351件の中から選定されました。
「確定拠出年金」ってなんだろう…と思われるかもしれませんが、「拠出=出す金額」が確定している年金制度のことです。iDeCoにおいて「拠出」とは掛金を払うことだと覚えてしまいましょう。
一方で、「確定給付年金」というものもあります。こちらは「給付=もらえる金額」が確定している年金制度のことで、民間の企業年金などが該当します。この両者の違いは「運用リスクを負う者の違い」と言い換えることもできます。
・確定拠出年金……運用リスクを負うのは「自分」
・確定給付年金……運用リスクを負うのは「企業」
このように、リスクテイカー(リスクを負う者)は誰?と考えると良いでしょう。iDeCoのリスクテイカーは加入者(自分自身)です。「年金」という名前がついていますが、自分で金融商品を選び、掛金を拠出し、運用して資産形成をしていく「資産運用」の1つなんですね。
資産運用である以上、「増えるかもしれないし、減るかもしれない」というリスクが付いて回ります。必要以上に恐れるのも考えものですが、心構えは必要です。資産運用の考え方については、「つみたてNISAやiDeCoは後回し!公務員が最優先で取り組むべきお金のハナシ」で解説していますので、ご一読ください。なお、iDeCoには元本確保型(定期預金のようなもの)の商品もあります。
公務員のiDeCo加入者数の推移
実際のところ、どれくらいの公務員がiDeCoを始めているのでしょうか。iDeCoの主体である「国民年金基金連合会」の発表資料から、公務員のiDeCo加入者の推移を見てみましょう。
ここ5年で約50万人ほどの公務員がiDeCoで資産運用を開始したようです。単純計算で年間10万人ペースで増えてきていますね。iDeCoについての質問が増えてきているのも納得の増加ペースです。このように注目度が上昇中のiDeCo。実は公務員の定年延長とも絡んでくる部分があります。
公務員の定年延長とiDeCoの関係
現行制度では、iDeCoに加入し掛金を拠出できる期間は60歳になるまで(つまり59歳11カ月目まで)と定められています。今後改正が予定されており、2022年5月以降は、「65歳になるまで」に拡大される見込みです。
もう少し具体的に言うと、「国民年金被保険者」であれば加入・拠出ができるようになります。厚生年金に加入している公務員は自動的に国民年金被保険者となるので、60歳以降も公務員として働き続ける場合は、iDeCoの掛金拠出も続けられるようになります。
前回の記事のテーマは「公務員の定年延長」でしたが、定年延長後もiDeCoを続けられるようになる、ということですね。老後の資産形成の準備期間に5年間の余白が足されるイメージで捉えておくと良いでしょう。定年延長で生涯賃金が増え、iDeCo延長で拠出期間が伸びますので、上手に使えば老後のキャッシュフロー安定の一助になると思います。
なお、65歳になると国民年金を受け取れるようになるので、国民年金被保険者ではなくなり、iDeCoの新規加入や掛金の拠出もできなくなります。
公務員はiDeCoの掛金上限が最も低く設定されている
iDeCoは「職業等によって拠出金(掛金)の上限がある」という特徴を持っています。公務員の場合は月額1.2万円(年間14.4万円)が上限ですが、2024年12月からは月額2万円(年間24万円)に引き上げられる予定です。
この上限額は、加入対象者の中で最も低く設定されています。例えば、自営業者の場合は月額6.8万円(年間81.6万円)が上限です(自営業者には厚生年金がないので、上限額が高く設定されています)。
そして、この公務員の掛金上限の低さは「公務員ならではのデメリット」をもたらします。具体的には、手数料の負担割合が高くなるんです。ということで、次はiDeCoのコスト面を見ていきましょう。
公務員が気をつけたいiDeCoのコスト
iDeCoの利用には、次の手数料がかかります(主なもののみ抜粋)。
・口座開設時:2,829円……最初の1回のみ
・拠出中:171円……毎月かかる
・運営管理手数料:金融機関によって0円~500円程度
・受取時:440円……受け取り1回ごとにかかる
ここでポイントとなってくるのは、掛金の上限は最低ラインにもかかわらず、手数料は基本的に一定だということです。年間14.4万円が上限の公務員と、年間81.6万円が上限の自営業者、両者の手数料が同じだということは、公務員の手数料負担割合が高いということになります。
この点を踏まえると、公務員の場合はコスト意識をより強く持っておくほうが良いでしょう。特に、確実なコストである運営管理手数料については、無料の金融機関を選ぶことをオススメします。無駄なコストを払うことは、それだけ運用のパフォーマンスを落とすことにつながります。コストにはきっちり目を光らせておく。公務員がiDeCoを利用する際の鉄則とも言えるでしょう。
なお、iDeCoの掛金は最低で月額5,000円からスタートできますが、この場合も各種手数料は同額です。つまり、掛金を低額にするほど相対的なコストが増大します。「iDeCoっておトクらしいから最低額で始めてみよう!」と見切り発車した場合は、このようなコスト面の落とし穴もありますので注意しましょう。
まとめ
それでは最後に、今回の内容をカンタンにまとめます。
・iDeCoは運用リスクを自分で負う資産運用の1つ
・定年延長後(60歳以降)もiDeCoの拠出は続けられる見込み
・公務員の掛金上限は低いので、手数料の負担割合が大きくなる
以上、公務員が知っておきたいiDeCoのポイントについてお伝えしました。iDeCo検討のヒントとしてお役立ていただければうれしく思います。
もちろん、iDeCoは資産運用の一種なので、まずは家計の最適化・ライフプランの作成といった土台固めをしっかり行った上で検討することが大切です。土台固めに必要な知識は、こちらにまとめてありますのでぜひチェックしてみてください。それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。
保険、「なんとなく」で入っていませんか?
次回へ続く
岩崎 大(いわさき・だい)
公務員専門FP事務所代表。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFP®。
1984年生まれ。熊本県出身。自治体職員として、生活保護・地域おこし・防災・選管・児童福祉などの業務に携わる。在職中にFP資格を取得し、2017年に退職・独立。公務員世帯に特化した独立系FP事務所を運営中。
ブログやメルマガ、YouTubeなど各種メディアで「公務員にとって本当に役立つお金の知識や情報」を発信中。YouTubeチャンネル「公務員専門FP」はチャンネル登録者7,000名(2021年10月時点)。