このまちをよくしたい、世の中の役に立ちたいなど、希望をもって飛び込んだ公務員という仕事。しかし、どれだけ一生懸命に対応しても住民からクレームを受けたり、何か新しいことに挑戦しようとしても上司に認めてもらえなかったりと、理不尽と感じることが増えると、ふと「仕事を辞めたい……」そう思う瞬間もあるだろう。
そこで今回は、公務員を辞めたいと思ったときに、どのようにモチベーションを保つかについて、公務員歴30年以上の福島 太郎さん(ペンネーム)に、自らの経験をもとにお話しいただいた。
※掲載情報は公開日時点のものです
Case1を読む この思いは自分だけじゃない!職員に立ちはだかる自治体あるあるとは。
Case2を読む ワクワクを諦めない!情熱を絶やさないための“ライフファースト”とは。
Case3を読む もっといい仕事をしたいと思っている人にぜひ読んでほしいこと。
解説するのはこの方
福島 太郎(ふくしま たろう)さん
福島県の基礎自治体職員、福島県出身。国家公務員として5年勤務した後、基礎自治体に転職。国家・県・基礎自治体での公務員経験がある。
昭和63年 横浜税関採用
平成5年 郡山市役所採用(税、防災、生涯学習、福祉、商工などの分野で勤務)
平成22年~24年 福島県東京事務所勤務
令和4年4月~ 生活保護担当課に勤務
著書:『公務員のタマゴに伝えたい話』
“現場”で“現物”を観察し“現実”を認識して問題解決を図る三現主義の考え方のもと、
令和2年6月に、公務員志望者や若手職員向けの本としてkindle出版し、その後は「地域」や「人間賛歌」をテーマに執筆活動をしている。
夢と希望を抱き公務員として採用された喜びもつかの間、“もう辞めたい”と考え早期退職を選択する若手職員が増えている印象です。退職することについては、“あなたの人生です、好きに生きるといい”と考えていますので、軽々に「辞めない方がいい」とは言いません。
私自身も横浜税関を5年で退職していますので、言える立場にも無いということでもあります。それでも早期退職を考えた時に、本稿を“読むクスリ”としてお使いいただき、より良い人生の選択に向けて、心と体の調子を整えていただけたらうれしいです。
分かっちゃいるけど辞めたいの。
“公務員を辞めたい”と考えたり、周囲に相談したりした際に言われそうな言葉が、「もったいない」になるのではないでしょうか。続いて、「せっかく採用されたのに……」「安定した身分と収入があるのに手放すなんて……」という話が続くと推察します。
「そんなことは分かっている。だけどもう辞めたい」という言葉を飲み込むことになるのですよね。
アメリカの心理学者アブラハム・マズローによる「マズローの欲求5段階説」をご存じの方も多いと存じます。私なりの理解で簡単に紹介しますと
第1階層 生理的欲求 生きていくための(食べたい、飲みたい、寝たい)の本能的欲求
第2階層 安全欲求 安全・安心な生活(生活する場所、健康など)に対する欲求
ここまでは“衣・食・住”といえるかもですね。
第3階層 社会的欲求 集団に帰属し、仲間と共に行動したいという欲求
第4階層 承認欲求 他者から認められたいという欲求
第5階層 自己実現欲求 自分が目指す人間になりたいという欲求
というような5段階の階層から構成され、低階層の欲求が満たされると、より高い階層の欲求を抱くという考え方です。
この考えをもとにすると、公務員は基本的に“生理的欲求・安全欲求”を満たされることになると考えますので、辞めたいという考えに至るときには、より高次の段階に進もうとして、壁や柵に悩み、満たされない想いを抱くことで退職しようとするのかもしれないですね。
体調不良で退職はダメ・ゼッタイ!
冒頭で、“あなたの人生です、好きに生きるといい”と書いたことと矛盾しますが、もし心身の故障により業務遂行に支障をきたし、“みんなに迷惑をかける”という気持ちで退職するのであれば、それは“ダメ・ゼッタイ”です。
退職を考えるなら、“生理的欲求・安全欲求”を確保してからにしませんか。公務員は雇用保険の対象外になりますので傷病手当や失業手当の対象になりません。退職と同時に無給になりますが、心身に故障を抱えている方は転職先を見つけにくいと思います。
それでは生きていけません、生理的・安全欲求を満たすことができません。もったいない以前の状況になります。資産が潤沢にあり生活に困らない方は別として、心身の故障を改善してから退職を検討してはいかがでしょうか。
公務員の魅力の一つに福利厚生、休暇や休職の制度が充実していることがあります。退職を考えるくらい悩むなら、制度を十二分に活用して体調を整え、転職先を確保してからにすることをオススメします。
社会的欲求・承認欲求で悩むとき。
“生理的欲求・安全欲求”が満たされているのに退職を考える背景には、“社会的欲求・承認欲求”が満たされていないのかもしれません。
端的にいえば、“職場の人間関係”ということになるかと思います。関係性が悪いとか、ハラスメントやいじめがある状況、また、“評価されない”ことへの不満などがあるかもしれません。
このような状況から身を守るために、“逃げる=退職”も選択肢の一つですが、もし、このように追い詰められたとしたら、逆襲を検討してみるのもいいでしょう。職場環境を改善するためにあらがうのです。
“そんなことをしたら、余計に関係性が悪くなる”と、考えるかもしれませんが、退職するのなら悪化してもいいではありませんか。誰かが改善しないと、あなたが退職した後も悪い環境が続くことになります。あなたのためではなく、未来の後輩たちのために環境改善に挑戦してから退職してはいかがでしょうか。
職場にはハラスメント防止などを担当する窓口があると思います。そこに窮状を訴えつつ、転職先を確保しつつ退職をねらいませんか。
なお、そのためには“記録”をつけておくことをオススメします。“いつ、どこで、誰が、どのような行為”をしたか、録画・録音まではしなくてもメモ程度でも構いません。しっかりした記録なら挙証資料となり得ます。窮状を第三者に訴えることで、職場環境が改善されて“社会的欲求”が満たされるかもしれません。
以上のことに挑戦してから退職を選択するのもありではないでしょうか。繰り返しになりますが、あなたのためではなく、同じような犠牲者を出さないための挑戦です。
挑戦しても成功するとは限らないですが、挑戦した経験は成長につながると考えています。ある意味では、第3階層・第4階層をすっ飛ばした、第5階層の“自己実現欲求”(成長欲求ともいわれます)をねらうことになるかもしれません。
逆境を乗り越えるための“Dの意識”。
某人気海賊漫画のDの意志とは全く関係ない、“Dの意識”です。前稿にて3つのワークとして、“ライス・ライク・ライフ”という視点をお伝えしました。その中の、“ライスワーク”にもつながるDの意識が“打算・妥協・惰性”です。
“夢と希望を抱き採用された喜び”とのギャップに悩み退職を考えるのなら、一度、夢や希望を横に置いてはいかがでしょうか。
目の前の現実を受け入れ、
1:打算 生活のために仕事をしています。条件が良い転職先が見つかるまでは、ここで給料分の仕事をします。
2:妥協 上司や周囲の人間は今一つだけど、どこにでもこういう人間はいるかもしれない。それならそれなりにお付き合いしましょう。
3:惰性 今は良い状況じゃないけれど、人事異動があれば環境は変わる。それまでの間は、とりあえず仕事を続けましょう。
という考えはいかがでしょうか。現状に不平不満、壁や柵を感じたとき、自分の健康や生活を守るために、Dの意識をもちライスワークと割り切り、臥薪嘗胆(がしんしょうたん)を図るのもありだと思います。
社会的欲求・承認欲求・自己実現欲求などにつながるライクワーク・ライフワークは、公務以外のところで満たしていくのはいかがでしょうか。
雨を楽しみませんか。
悩める方への言葉に、“やまない雨はない”というものがありますが、さらに加えれば“雲の上はいつも青空”ですし、“雨を楽しむ”こともできるのではないでしょうか。
現状を嘆くだけではなく、見えないものを想像したり、現状を受け入れたりしながら、考えや行動を変えたり、環境を変えることに挑戦するのもありだと考えています。
冒頭で、“あなたの人生です、好きに生きるといい”と書きましたが、本音をいえば“辞めないでほしい”です。皆さんが公務員に採用されたとき、皆さんだけではなく、家族や周囲の方も喜び、今後の活躍を期待したのではないでしょうか。
採用した側も期待していたと思います。その喜びや期待を大切にもち続けてほしいと願っています。
ギャップや逆境のために退職を考えるなら、その前にいろいろなことに挑戦することを楽しんでみませんか。挑戦してワクワクを楽しみませんか。退職するのはそれからでも遅くないと思います。
本稿をお読みの皆さまの、一層の御活躍を心から期待しています!