ジチタイワークス

茨城県つくば市

「科学の街」が官民連携でICTを活用 RPA導入で業務時間を大幅削減

平成30(2018)年に実施された、行政改革の取り組みを発表する「行革甲子園2018」。141もの事例のなかから選ばれ、ファイナリストとして登壇した茨城県つくば市の取り組みは、「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」を活用したものだった。

※下記はジチタイワークスジチタイワークスVol.7(2019年9月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
 [提供] 茨城県つくば市

定型業務の量が多く長時間労働が課題に

市役所には定型化された単純な業務が多くあり、長時間労働のひとつの要因になっている。つくば市も、そのような問題を抱える自治体のひとつ。平成29(2017)年7月、約400人の市職員に実施したアンケートによると、4分の1もの職員が定型業務に対して改善が必要だと回答した。同時に「何から着手していいのかわからない」「改善策を考える時間もない」との声も上がった。

例えば市民税課では、2〜4月の繁忙期には、通常の業務に加えて課税処理や申告相談などの業務が増える。特に2月はほとんどの職員が月に100時間以上残業し、業務時間削減が課題となっていた。市民窓口課でも、育休中の職員や時短勤務職員が同時期に在籍したことで、住民の待ち時間や職員1人あたりの業務時間が増加していた。

そこで、市は「RPA」に着目した。「RPA」とは認知技術を活用して、オフィス業務を効率化する仕組み。ロボットが人間の代わりに単純作業を自動化してくれるものだ。

つくば市は「科学の街」とも言われ、市全体が先進技術やサービスの実証実験の場となっている。民間企業と共にRPAで業務を効率化し、時間短縮やミス削減につながらないかと考えた。

個人へのアンケートで導入課を決定

平成29年10月に本プロジェクトの事業者を公募し、11月に決定。官民連携の形をとり、自治体の課題解決だけでなく「科学の街」として先端ICT技術を持つ民間企業に実験の場を与えて、お互いに知恵を貸し合うという関係でスタートさせた。

まず、職員への「全庁アンケート」によってRPA導入に適した課を特定。「入力業務」や「確認・照合業務」などが多い課として市民税課が選ばれた。さらに「個別業務調査」によって各課の業務内容や量を確認し、市民窓口課にもRPAを適用させることに。こうして2つの課における全6業務への導入が決まった。

続いて、対象業務のプロセスを可視化し、RPA適用範囲を調査。対象課の職員にはRPAの研修を受けてもらい、職員自らRPAを動かすためのフローであるシナリオを作成した。

約8割も時間削減本格導入がスタート

実際に動作させると、市民税課の5業務では3カ月間で約79%の時間削減につながった。市民窓口課の1業務では約83%の時間削減に成功。現場の職員からは、単純な事務作業にかける時間が他の業務に回せて助かったとの声があった。

平成30年10月から、検証結果をもとに本格導入がスタート。「納税課」「資産税課」「障害福祉課」も加わり、今年中に19課に広がる見込みだ。

つくば市が目指すのは「世界のあしたが見えるまち」。今回の取り組みでは、民間企業ですでに導入されているRPAを自治体にも取り入れたことで、市が掲げるビジョンの通り、同様の課題を持つ他自治体を先導したと言える。


How To

01 職員への押し付けは厳禁

業務改善のためでも、新たなアイデアの実践は「余計な仕事」だと思われてしまうことがある。現場の責任者は「新たなICT技術」に不安を感じる可能性も。現場の職員とコミュニケーションを取り、丁寧に説明する必要がある。

02 官民連携で知恵を出し合う

民間企業との連携によって、市にとっては「行政サービス向上」に、企業にとっては「サービスのテスト開発」になる。今回の事業者は、対象課の選定や職員へのRPA研修の実施、検証結果の分析などを担当。共同研究費用はゼロでスタートした。

03 定型作業の多い課を

個人アンケートで決定最初からRPAを導入する課を決めてしまうのではなく、「RPA」という単語を出さずに「面倒な定型作業」をアンケートであげてもらい、定型業務が多い課を絞り出した。その後、面倒な作業は自動化できると提案し、職員を巻き込んだのだ。

04 職員自らシナリオを作成

職員にRPAの研修を受けてもらい、シナリオ作成までを指導。慣れたら数時間で、早ければ数十分で作れるようになった。職員がスキルを身につけることで、今後エラーの発生や改修、新たなシナリオ作成が必要になった場合もすぐに対応できる。

05 RPAは人員削減のツールではない

RPAの導入は人手不足を補うだけでなく、人員削減を狙っているのではと思われてしまうことがある。RPAで時間短縮できるのは作業の一部分なので、人一人の代わりに働いてもらうことは不可能。その事実を周知して不安を取り除き、受け入れてもらうことが必要なのだ。

Results

 

RPAはすぐに作れる業務改善のツールだと感じました。何事もトライ&エラーが重要なので、周囲に地道に説明して、恐れずに一歩進むことです。


(左:つくば市総務部 ワークライフバランス推進課 業務改善推進係長 三輪 修平さん、右:元・政策イノベーション部長〈現・文部科学省〉神部 匡毅さん)
 

このページをシェアする
  1. TOP
  2. 「科学の街」が官民連携でICTを活用 RPA導入で業務時間を大幅削減