【セミナーレポート】射水市公共施設マネジメント講演会 津山市のキセキ~公民連携の可能性~
富山県射水市はこのほど、「救急薬品市民交流プラザ」で、公共施設マネジメント(以下、公共FM)に関する講演会を開催した。
“負債”を“資産”に変えた岡山県津山市の事例を中心に、公共施設の廃止から始まるまちづくりについて共有。市民や民間事業者、市職員ら約70人が参加し、津山市、「まちみらい」の寺沢さんも招いて公民連携について学ぶ機会に。
当日の内容をダイジェストで紹介する。
概要
□タイトル:公共施設マネジメント講演会 津山市のキセキ~公民連携の可能性~
□実施日:2022年10月14日(金)
□開催場所:救急薬品市民交流プラザ
□協力:日本管財株式会社、合同会社まちみらい
□参加者数:約70人
□プログラム:
第1部:講演「津山市のキセキ」
第2部:射水市の取組紹介
第3部:本日のまとめ「公民連携の可能性」~質疑応答~
講演「津山市のキセキ」
この日の基調講演では、数々の先行事例で知られる津山市の取り組みを紹介。現場を率いた川口さんに、同市が抱えていた課題とそれを克服するための様々な施策を語ってもらい、公民連携がもたらす可能性について共有した。
<講師>
川口 義洋(かわぐち よしひろ)さん
津山市 財産活用課長・国土交通省PPPサポーター
プロフィール
1999年津山市役所入庁。16年間建築営繕および建築指導に携わり、2015年FM部門に異動。それ以降、建築的な視点から公共施設のマネジメントや公共空間の利活用など都市経営課題の解決に取り組む。公共施設の利活用に関する民間提案制度の創設や、全国初となる学校断熱ワークショップの企画・実践など、公民連携とFMの両軸で活動中。国土交通省PPPサポーター。
いくつもの現場を訪れて見えた、公共施設が抱える闇とは。
まずは、公共施設が抱えている“闇”を皆さんに知ってもらいたいと思います。私は公共施設の点検にいった際に、このような光景をよく目にします。
写真の通り、全く愛情が注がれていません。これが当市の公共施設が置かれている現実です。会場となった富山県に来るのは初めてで、先ほど射水市内を少しまわってきたのですが、やはり似たような光景を目にしました。結局は、どこもお金がない。では、お金がないならどうしていくかというのが今日の話の本質です。
それでは、津山市の公共施設をいくつか紹介していこうと思います。まず「津山洋学資料館」は、私が15年ほど前に建築の担当をした施設です。著名な建築家にデザインを依頼した美しい施設なのですが、利用料収入が250万円、維持管理費は1,300万円と、大赤字に。これが全て公費で賄われています。直営施設なので、この数字には職員の人件費を含みません。
次に「津山城下町歴史館」。1億~2億円くらいかけて建てられています。収益は0円、支出は約100万円。無人施設なのでお金はあまりかかっていませんが、億単位の金をかけて1円も収益を生まない施設というのはどうなのでしょうか。また、「グラスハウス」というものもありました。西日本有数のプールで、収入は1億円以上ありましたが、支出は2億円以上。津山市で最も大きな赤字を抱えていた公共施設です。ここについては後で詳しく紹介します。
公民連携を通して光が見える!津山市で実現した2つの事例。
このように、まちを豊かにするためにつくられた公共施設が、まちをむしばんでいるという現実。そして“公共施設だから仕方ない”と放置されている状況は、このままでいいのでしょうか。私は“諦めたら終わり”という言葉をかみ締めながら、日々公共施設と闘っています。そこで必要になってくるのが公民連携です。
行政だけでは解決できない問題に、民間とチームで立ち向かう。そうすればもっと面白くなるということが、公民連携が求められる理由だと思います。こうした発想をもとに、私は色々なプロジェクトを動かしています。その一部を紹介します。
まずは「阿波(あば)プロジェクト」。阿波地区は津山市の北部にあり、人口は約450人の地域。そこで私が目を付けたのがキャンプ場です。閑古鳥が鳴いていたのですが、ポテンシャルがあると感じて、外部のWEBサイトに情報を載せ、声をかけてくれる事業者はいないかと試しました。ほかにもサウンディングや逆プロポーザルなど様々な策をとったのですが、省略します。
掲載後しばらくすると、企業から問い合わせがあり、話が急展開。今ではグランピング施設としてオープンしています。過疎エリアにおしゃれなグランピング施設が完成し、売り上げ目標は従前の約30倍。お金が生まれると、まち全体が元気になり、エリアが再生していく。そんなところを私は応援していきたいと思っています。
そして、先に触れたグラスハウス。大赤字を出していた温水プールを、まちの資産に変えていくという大きなプロジェクトです。ここは県から無償で譲渡された施設で、集客はあるのに、温水プールは莫大な維持費がかかるので赤字が埋まらない。指定管理が一旦終了する令和2年度末に廃止する方向で進めていたのですが、利活用の可能性もあるのではないかと、サウンディングをしました。すると、事業者は口を揃えて「プールでなければ運営できる」と回答。ならばと、民間が自由に事業展開できるよう、“RO-PFI+コンセッション※”という手法で制度設計しました。
※施設の所有権を行政がもったまま、民間事業者が改修・運営する方式
ここで私がこだわったのは、“クリエイティブであれ”ということ。私たち公務員ができるクリエイティブは、民間が動きやすくなる制度をつくることだと思います。自治体がもっている制度の網を一旦ルーズにして、民間事業者の自由度を高める。覚悟が必要ですが、面白いプロジェクトができていくことを実感しています。
ここは最終的に地元の会社による運営が決まり、令和4年5月には「Globe Sports Dome(グローブスポーツドーム)」としてオープン。様々なスポーツアクティビティができる施設で、今まで毎年1億円以上かかっていた経費がストップし、プラスの資産に転換していくことで、財政上の収支では約9千万円の効果となりました。これは次の公共施設に活かしていこうと考えています。
“公務員病”から脱却し、公民でビジョンの共有を!
このように、負債になっている公共施設を地域の資産へ転換し、お金の動きを逆転させるしかけをつくりたいと思っています。公共施設のもつイメージをリノベーションする。“公共空間が稼いではダメ”という発想を切り替え、“稼ぐ”という部分は民間に任せ、もともとあるものを改良する“Re-innovation”にもっていきたいのです。
課題を前にして“計画が……”や、“先行事例は……、手法は……”などから考え始めるのは、いわば“公務員病”です。計画や先進事例、手法は重要ではなく、結局は、“やるかやらないか”だけです。机の上で考えるよりもまずは挑戦してみること。それが経験になって次のプロジェクトに活きてくると思います。
今日紹介したものは、ほんの一部です。公民連携の手法は色々あって、その手法自体はどうでもいい。方法論は後からでもついてくるので、まず大切なのは“何をしたいか、どうしたいのか”というビジョンです。
このビジョンを達成する手段が公民連携。そして、民間がやりやすいように支援していくのが行政の役割だと考えています。いずれにしても、現状の公共施設は底辺にあり、やればやるほど成果が出ます。それが楽しいし、感謝されます。公務員は本来、このような仕事をやるものだと思います。目の前のことにとらわれて、クレーマーから文句ばかり言われるのが公務員の仕事ではありません。みんなで、公共施設を幸せな建築にしていきましょう!
射水市の取組紹介
川口さんに続いて、射水市が取り組んでいる公共FMの事例も紹介。数々の先行事例を参考にしつつ、地域の特性や住民のニーズにフィットした新たなまちづくりが進んでいる。
<講師>
佐野 泰寛(さの やすひろ)さん
射水市 資産経営課 公共施設マネジメント推進班長
プロフィール
老朽化した施設の民間売却・リニューアル・ネーミングライツの導入や公共施設個別施設計画の策定を経て現職。庁舎・学校など105施設への包括管理業務委託の導入や、市内の全公共施設・都市公園・未利用市有地へ民間提案制度を導入。現在、施設所管課とともに12提案の事業化に向け詳細協議中。
射水市が実践している公共FMと総合管理計画の概要。
射水市の公民連携、公共FMの特徴にネーミングライツがあります。小さな施設にも導入しており、文化ホールや体育館をはじめ、今日の会場「救急薬品市民交流プラザ」も市内の製薬会社のネーミングライツです。トータルで1,452万円の貴重な財源になっています。
また、合併前の旧市町村庁舎の統合と跡地の利活用も重要な取り組みです。当市は平成17年の合併後、しばらくは6庁舎を活用した分庁舎方式でした。しかし、これでは市民も大変で、職員の業務効率も悪いということで、平成28年度から新庁舎と大島分庁舎、布目分庁舎の3庁舎体制に移行しています。廃止した4つの分庁舎は、できるだけ民間活力を導入しようという方針で、「クロスベイ新湊」という複合施設や私立小学校、郵便局などに生まれ変わっています。
こうした公共FMについて、当市では全国の自治体と同様、公共施設等総合管理計画をつくっています。内容は大きく2つです。
1:2054年までの更新費用を推計
2:今後の基本的な考え方と目標を設定
この計画に沿って、2022年度以降33年間の更新費用を積算すると、年平均で約56億円が必要。この金額は過去5年間の平均よりも5億円多いという結果であり、こうした状況を踏まえて設定した目標は下記です。
ここに記されている4つの方針を、どうバランスをとって実現していくか、これがまさに公共FMだと考えています。もちろん最も重要なのが市民満足度の向上であることは、いうまでもありません。
施設の廃止をポジティブに!まちの新陳代謝につながった事例。
ここからは、公共施設の再編や廃止に対する住民の意識について考えてみましょう。一般的に公共施設の廃止というと、地域の衰退などマイナスなイメージをもたれます。しかし、ニーズが減っている公共施設を廃止したことによって民間事業者が進出し、想像もできなかった輝きを放っている事例が全国にあります。これは寺沢さんの言葉を借りると“まちの新陳代謝”。当市にも、そうした事例があるので紹介します。
この写真は、「足洗老人福祉センター」という施設。温泉を備え、年間約4万人の利用がありました。しかし老朽化が進んでおり、指定管理料は年間1,700万円。大規模改修を行うと数億円が必要、と課題の多い施設でした。隣には都市公園がありますが、放火や照明の破壊などが起き、治安の面でも問題がありました。
この福祉センターは現在、素敵な空間に生まれ変わっています。誰でも入りやすい温泉を民間事業者が整備し、市もそれに呼応して、隣接する公園にはドッグランやそりすべりの場所を新設。地域の方に多く利用され、笑顔があふれる光景に一変しました。
これはまさに、施設の廃止をきっかけに新しいまちづくりが始まった例だといえます。公共施設の廃止は全てがマイナスではなく、エリアの価値を高めていく可能性も秘めていると思います。
最後に、最近の取り組みと今後の展望についてお伝えします。
まずは包括管理業務委託の導入です。当市では令和4年4月から、公共施設の包括管理業務委託を導入しています。北陸地方では初めての導入で、この包括管理が公共FMの基礎となるものだと私たちは捉えています。
また、7月からは公民連携をさらに加速させるべく、新たに公共施設と未利用市有地を対象とした民間提案制度を導入しました。先日、提案書の提出を締め切ったのですが、本当に多くの独創性にあふれた提案が寄せられました。この制度により、まちの課題を一つでも多く解決していきたいと考えています。
こうした取り組みの先には、様々な公民連携のプロジェクトが展開され、まちの魅力向上につながっていくはず。そんな明るい未来を実現できるよう、これからも頑張っていきたいと思います。
本日のまとめ「公民連携の可能性」~質疑応答~
講演会の最後は会場でのディスカッション。参加者と川口さん、ゲストの寺沢さんも交え、この日の内容を振り返りながら、公共FM推進において求められるマインドについて意見を出し合った。
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続きは日本管財(株)が運営する「公共FMサロン」にて。加入ご希望の方は下記問い合わせ先よりご登録ください。Facebookページでも公共施設マネジメントの「今」を発信中です。
参加者募集中|全国各地の職員が集まる「公共FMサロン」
日本管財(株)では、2021年2月より自治体職員限定のオンラインサロン「公共FMサロン」を開設しています。会員数は119自治体、延べ146人(令和4年12月末時点)。公共FMに関わる人が、自らのまちの活動や問題、熱意などを共有し、実践知を学び合うことで、FMの実践へとつなげていくサロンです。複数のパートナー専門家やサロン会員の他自治体職員と気軽に意見交換ができる場となっています。参加は無料です。皆さまのご参加をお待ちしています!
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