ジチタイワークス

茨城県

ICTを活用した災害ボランティアセンター運営で、被災者に寄り添う時間をつくる。

茨城県は、災害ボランティアセンターでのICT活用により、運営の効率化を目指している。ボランティアの受け付けや、被災者ニーズの管理などができるシステムを県と県社会福祉協議会が共同で開発。活動の“見える化”による円滑な運営で、地域住民の支援に注力できる環境を整えているという。その詳細を両担当者に聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.23(2022年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

過去の災害体験から、ICT化で効率的な現場運営を目指す。

大規模災害が頻発している近年、同県でも平成27年の関東・東北豪雨、令和元年の東日本台風と、度重なる災害に見舞われた。その都度、県内外から多くの災害ボランティアが被災地に駆け付け、被災者を支援してきたが、そのボランティアと被災者を結び付ける役割を担うのが、災害ボランティアセンター(以下、災害VC)である。東日本台風時には、県内5カ所に設置・運営された。

そのときの様子について、稲葉さんは「約1万3,000人の災害ボランティアが参加したうち、3分の1以上にあたる約4,900人が、災害発生直後の1週間に集中しました。駐車場の確保、ボランティア活動に使用する資材や送迎用の車の調達、ボランティアと被災者ニーズのマッチングなど膨大な作業に追われました」と振り返る。「受付票やニーズ票などは紙でのやりとりが基本だったので、訪れたボランティア希望者が受け付けから活動現場に向かうまでに、1時間以上かかることもあったんです。

また、変化する被災者ニーズの管理やボランティアのマッチングは混乱を極め、個人情報が記載された書類を紛失するリスクも感じました」。これらの経験を踏まえ、より円滑で効率的な災害VC運営を目指して、ICT化に乗り出したという。

運営側もボランティア側も活動負担が軽減される。

令和3年度から、同県と県社協は共同で災害VCのICT化に取り組み始めた。民間企業の協力のもと、10月には「いばらき型災害ボランティアセンター運営支援システム=通称IVOS※(以下、アイボス)」をリリース。これにより大きく変わるのは、ボランティアの受け付けと情報管理の方法。これまで活動当日の朝に行っていた受け付けは、同システムにより希望者の事前登録が可能に。当日は、受付場所に備えられた二次元コードをスマホなどで読み取り、氏名などの簡単な入力で完了する。

また、活動人数を事前に把握できるため、受け付けから活動へスムーズにつなげられるという。「これまでエクセルで行っていた情報管理も、オンライン登録によりクラウド化できるので、職員間での情報共有が迅速になり、入力や管理作業も大幅に削減できます」と稲葉さん。また、地図上には被災者ニーズの位置が表示され、その対応状況も“未対応・対応中・完了済”と色分けで確認可能。災害復興の“見える化”で災害VCが発見できていない、被災者ニーズの掘り起こしにも役立つという。

メリットがあるのは運営側だけではなく、ボランティア側も作業負担を軽減できるという。ボランティアが活動指示書に印刷された二次元コードを読み込むと、活動現場の地図を確認できたり、活動報告をオンライン上で入力したりすることも可能になる。

※IVOS=Ibaraki Disaster Volunteer Center Operation Support System

機能をあえて絞ることで、使いやすいシステムを構築。

実際の災害時での使用はまだないが、その実用性を高めようと常陸太田市・龍ケ崎市社協の協力を得て、アイボスの活用を組み込んだ災害VC設置・運営訓練を実施した。参加した職員からは“操作に慣れるまでは練習が必要”という意見が出た一方で“運営が劇的に変わると思う”など、前向きに受け取る声もあったという。ほかにも、各市町村社協をまわって操作研修を実施。また、被災地の社協を組織的に支援するため、県内社協職員で発足した「災害初動期対応チーム」のステップアップ研修にも取り入れられた。

開発に関わった福祉政策課の石田さんは「目指したのは、誰でも使えるシステムです。多機能搭載型ではなく、あえて機能を絞りました。災害VC運営ではアナログの方が効率の良いこともある。だからこそシステムとアナログを併用し、効率の最大化をねらいました。誰もが迷わず利用でき、多様な状況に対応可能な仕様であるほど災害現場で役立ちます」。

稲葉さんは同システムの導入意義を「職員の作業効率化だけではなく、それにより生まれた時間で、本来の業務である“住民に寄り添う時間”を確保できることです」と話す。「災害支援は県をまたいで行うこともあるので、全国共通で使える仕組みがあれば理想的。要望があればアイボスを活用することもできるので、気軽に問い合わせてもらえれば」と心強い言葉をくれた。

左:茨城県 福祉部 福祉政策課
石田 裕一(いしだ ゆういち)さん
右:茨城県社会福祉協議会 福祉のまちづくり推進部
稲葉 隆之(いなば たかゆき)さん

災害ボランティアの活動をより効果的にしたいと考え、活動に必要となる情報を茨城県災害ボランティア活動支援サイト「災ボラSTANDBY」で発信しています。平時・有事を問わず、様々な情報を掲載していますので、ぜひご覧ください。

課題解決のヒント&アイデア

1.システム化が最善ではなく、アナログとの併用が大切

フォームにある活動報告とニーズの進捗管理は、あえて自動連係させていない。職員が被災者と直接話をすることで、隠れたニーズを発見できる面もあるため、ボランティアから聞き取りを行って更新する。

2.県内の社協をまわって研修し、業務の標準化を目指す

災害VCの運営は、主に被災市町村の社会福祉協議会が中心となって行う。運営業務をできる限り標準化することで、誰でも担えるようにするために、アイボスは県内共通の仕組みで運用する。

3.これまでに築いた社協と地域住民とのつながりを活かす

職員の負担軽減が目的ではなく、軽減された労力を“普段から住民と接している、地元社協にしかできない活動”に向けることにある。職員が地域に出て住民に寄り添った支援を行えるようにする。

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