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【セミナーレポート】10の取り組みから学ぶ! 教育の質向上と働き方改革を実現させる方法【DAY1】

GIGAスクール構想第1期で、さまざまな課題が浮き彫りとなりました。中でも、教育分野におけるデジタル格差や教育の質の向上、職員の働き方改革については、解消に向けて教育現場への適切な情報提供やサポートが求められています。
本セミナーでは、こうした課題に対応するための取り組み事例や民間サービスを2日にわけてご紹介しました。
概要
■テーマ:何をやる?誰がやる?地域課題を解決するまちづくり!
■実施日:令和7年11月27日(木)
■参加対象:無料
■申込者数:161人
働きがいと働きやすさをともに高める学校づくり政策~ 国・自治体ができることを考える、実践する~
第1部に登壇したのは、教育委員会のアドバイザーなども務める妹尾昌俊氏。学校や教育委員会、教員だけではなく首長部局も含めた政策や環境整備、仕組みづくりについて話していただきました。

【講師】
一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
OCC教育テック大学院大学教授
妹尾 昌俊 氏
全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。政府の委員(中央教育審議会、部活動ガイドライン検討会議など)や教育委員会のアドバイザーも多数経験。
教育の質と働き方改革をどう両立させるか
「働き方改革」という言葉が浸透し、現場には少しずつ変化が見られるようになっています。例えば留守番電話の導入です。6、7年前には、「何かあったらどうするのか」「クレームになるのではないか」といった声が多く聞かれましたが、今では7~8割の自治体で導入されています。
部活動についても、以前は教職員の善意に依存した運営が当たり前で、年間を通してほぼ毎日活動しているという話も珍しくありませんでした。しかし、現在は活動日数の見直しや体制整備など、変わり始めている部分もあります。
一方で、勤務時間の問題は依然として深刻です。週60時間以上勤務している教職員は減ってきていますが、過労死ラインに近い週55時間以上で見ると、2022年時点でも小学校で約3割、中学校では6割近くにのぼります。正直に言って、これは他の業界と比べても非常に厳しい数字だと感じています。
勤務時間が減っている一方で、私がより深刻だと感じているのは、精神的にしんどい教職員が増えていることです。事実、全国で約1万3000人の教員が、精神疾患などで1カ月以上休職・療養しています。


また、小学校教員の約41%が不眠症の状態にあるという数字も出ています。眠れていないまま授業や子ども対応を続けていれば、教育の質に影響が出るのは当然です。私は、教育の質と働き方改革は、実は同じ方向を向いていると考えています。まずはしっかり眠れる環境を整えることが、結果として教育の質を支えるからです。
子どものウェルビーイングと教職員のウェルビーイング
睡眠不足はメンタルヘルスにも影響し、イライラしやすくなったり、攻撃的になったりすることが研究でも示されています。教職員が疲弊すると、子どもへの関わりが難しくなり、結果としてトラブルやクレーム対応が増え、さらに忙しくなるという悪循環に陥ります。だからこそ、子どものウェルビーイングと教職員のウェルビーイングは、切り離せない関係にあるのです。
ところが、現在の働き方改革を見ていると、「在校等時間を短くすること」自体が目的になってしまっている場面があるように感じます。時間管理はもちろん大事ですが、管理すべきなのは時間だけではありません。ストレスの状態や、「本当は頑張りたいけれど、しんどすぎる」というサインにも目を向ける必要があります。
また、「子どもと向き合う時間を確保するために働き方改革を進める」という説明をよく聞きますが、私はこの言い方には少し違和感を覚えています。多くの教員は、授業や授業準備、添削、部活動など、すでに子どもと向き合いすぎるほど向き合っているからです。向き合う時間を増やせば、全て解決するわけではありません。
むしろ必要なのは、時には子どもと少し離れ、「自分と向き合う時間」を確保することだと思っています。趣味に没頭したり、旅行に行ったり、関心のあることを学び直したりする時間が、結果として授業や子ども対応に生きる——教員の生活が豊かであることが、教育活動を支えるという視点を大切にしたいと考えています。

多忙の内訳を可視化する
さて、その改善のためには、まず現状を知ることが必要です。そこでオススメしたいのが、簡単なワークログを取ることです。何時何分に何をしたかを書き出し、その業務がどれくらいしんどかったか、あるいは充実感があったかを数値で振り返る。そうすると、時間をかけているのにウェルビーイングが低い業務が見えてきます。


理不尽なクレームから教職員を守る
働きがいを大きく損なう要因の1つが、理不尽なクレーム対応です。保護者対応は大切ですが、教職員の精神をすり減らす対応が続けば、学校は持ちません。電話対応の時間に目安を設けるなど、教職員を守る仕組みを作ることが必要だと思っています。
子ども同士のトラブルは当事者同士で解決しているのに、保護者同士が引きずり、結果として先生が対応に追われる場面も、これまで数多く見てきました。私は、「学校は保護者のケアを担う機関なのか」と問いかけたいと思っています。ここに関しては、福祉など首長部局がもっと前に出るべきケースも多いはずです。
例えば、熊本市では首長部局に専門家を配置した「こどもの権利サポートセンター」を設置しています。学校や教育委員会が抱え込みすぎない体制づくりの1つの方向性でしょう。

このような取り組みは、他県ももっと進めていくべきではないかと感じます。
個人の献身に頼らない仕組みづくり
公務や学校のDXについて、私は「DX以前の問題」が多いと感じています。電話でのやりとりに頼りすぎていることや、非効率なICT環境は、教職員の負担を増やします。個人の努力や献身に頼るのではなく、仕組みや制度で解決する発想に切り替えることが重要です。
例えば、13時から14時半は教頭先生の集中タイムとして電話を取り次がない。これだけでもだいぶ状況が変わるでしょう。
また、自治体によって異なりますが、パソコンの起動時間が長いとかアナログな仕事がたくさんあるといった不満の声もよく聞きます。こうした声は業務改善や働き方改革の大チャンスなのですが、教育委員会にはなかなか届かない。ぜひ、教育委員会の方や首長部局の方は一度考えてみていただきたいと思います。
学びの質向上と教員の負担軽減を両立するICT教材活用のコツ~「スタディサプリ」の活用事例より~
第2部に登壇したのは「スタディサプリ」の導入・活用支援を手がける株式会社リクルートの高橋卓見氏。ICT教材を活用し、働き方改革と教育の質の向上を同時に実現する仕組みづくりを始め「スタディサプリ」の実践例なども伺いました。

【講師】
株式会社リクルート
Division統括本部 まなびDivision 教育支援統括部 公教育支援推進部 公教育支援グループ マネージャー
高橋 卓見 氏
2018年より株式会社リクルートマーケティングパートナーズ(現:株式会社リクルート)に入社後、スタディサプリBtoBサービスの高校支援業務に従事。学習習慣形成・学力向上のためICT教材の活用伴走を行う。2022年より東北グループマネージャー、2023年より首都圏グループマネージャーを歴任。2025年より公教育支援領域のグループマネージャーに着任し、公教育領域におけるスタディサプリ導入・活用支援をリード。
ICTのゴールは「教員の時間を取り戻すこと」
ICTは導入することが目的ではなく、学びの質を高めながら、教員の時間を取り戻すことが本来のゴールです。少し使ってもらうのではなく、学習の質向上を主軸に「しっかり使う」設計を行い、その結果として負荷軽減も実現する。この両立を目指すべきだと考えています。ところが、現場ではその両立に苦戦しているという声も少なくありません。

これは、学校の先生方や教育委員会だけではなく、ICT教材を提供する企業側にとっても重要な課題です。そこで私たちは、学校や教育委員会の皆さんと積極的に関わり、伴走支援をする中でいくつか活用のコツを見つけました。
スタディサプリの特徴
コツを解説する前に、まずはICT教材として弊社の「スタディサプリ」の特徴を簡単に整理します。生徒にとっては、動画とドリルがセットになっており、テキストも含めて自主学習を進められる教材です。学習履歴を確認できるため、自分の成長も把握できます。
先生の目線で見ると、動画やドリルを指定して配信できます。単元ごとにまとめた「単元テスト」も配信でき、一度解くと、間違いに応じた動画や次のドリルがレコメンドされる機能があります。個別最適な学習を実現する教材として活用されている理由がここにあります。

GIGA以前の代表的な指導は、授業を中心に紙の小テストで習熟度を見て、一斉指導で復習する、赤点補習や質問対応でフォローする、といった形でした。しかし、つまずきが一人ひとり異なる中で一斉補習を行うことには限界があります。そこでICT教材を組み込むことで、個別最適な動画学習、無学年式の先取り、反転授業でのインプットなどが可能になり、操作も簡単なため時間を圧縮できる。結果として、これまで難しかった点を補い、学習の質を上げられると考えています。

活用事例1:事前動画による予習
まず事例1は、予習での活用です。先生方にヒアリングを重ねると「習熟度がばらばらで授業が進めにくい」「生徒ごとのつまずきが異なるが個別対応には時間の限界がある」といった具体的な悩みが見えてきました。
そこで、授業の前に授業範囲の動画を配信し、事前にインプットする機会を作ることを提案しました。具体的には、事前に授業範囲の動画を配信し、授業内でも先生の授業で同じ内容を扱います。授業後はWebドリルで復習し、間違いに応じて動画がレコメンドされ、再復習できるという設計です。
インプットが2回になることで「わかった」と感じるタイミングが増え、授業参加が積極的になったという生徒からの声がありました。先生方からも、授業導入がスムーズになり、授業の質を高められたという反応をいただいています。

活用事例2:単元テストを成績評価に活用
次に、「習熟度をきちんとチェックし、個別最適に学び直しをさせた上で評価したい」という意見があり、テスト範囲に合わせた復習教材を事前に配信し、授業内で単元テストを実施。その結果を即時に確認し、その場で個別に復習できるようにする、という流れを提案しました。
紙テストだと範囲が広く、時間も経って忘れてしまうことが起きやすいのですが、単元単位で復習教材もセットになっていることで理解が進んだという反応がありました。先生方からも、単元ごとの細かな見取りができ、単元単位での評価が実現できたという声が上がっています。

活用事例3:スタディサプリ×家庭学習の取り組みを成績評価に活用
家庭学習においては、生徒側には「してもしなくても変わらない」という感覚がある一方、先生側には「個別最適なフォローをしたいが、現実的には難しい」という悩みがありました。そこで、家庭学習での取り組みを評価の一部に組み込み、そのことを生徒にも伝える設計を提案しました。
まず、授業復習、テスト対策、長期休暇などシーンに合わせて宿題を配信します。生徒がドリルに取り組むと、解けなかった内容に応じて動画や次の確認テストがレコメンドされます。これにより、生徒は「自分がわからないところをわかるようにするための課題」が出ていると捉えられるようになります
効果として、プリント作成・配布・回収・採点の時間が削減できたことに加え、フォローアップ課題によって、一人ひとりに応じた個別最適な指導を負担を増やさず実現できた点が大きいと伺いました。もともとは評価に入れることで強制力をかける意図もありましたが、内容が「自分に合っている」という納得感があることで、内発的な動機に変わり、意欲的に取り組むようになったという話もありました。

このように、現場では学習の質に関わる課題が様々な場面で生まれている一方、教育委員会に上がってくる課題は粒度が粗くなりがちだと感じています。その状態で「ICTを使いましょう」と発信しても、現場には話が飛躍して聞こえかねません。
だからこそ、ヒアリングによって課題の解像度を上げたり、ICTツールを最適に使う提案をしたりする“橋渡し”のサポートが必要なのです。
わかる!できる!を増やすために〜子どもたちの手を止めないAIチューター「Knock」の学校内活用事例〜
第3部に登壇したのはHanji株式会社の村田洋佑氏。生徒がつまずいた瞬間に手を差し伸べ、先生の負担を軽減するAIチューター「Knock」について解説していただきました。

【講師】
Hanji株式会社
代表取締役
村田 洋佑 氏
2023年12月にHanji株式会社を共同創業し、AIチューター「Knock」を全国の中高生や学校向けに提供している。新卒ではマッキンゼーに入社し、その後AI教材を開発する教育スタートアップにて経験を積んだ後、創業に至る。
「Knock」とは
「Knock」は、わからない問題をアプリで撮影すると、生成AIがヒントや回答、解説を生成し、分かるまで何度でも質問できるアプリです。利用者の9割は中高生で、20万人が使っています。
現在、7000人ほどが評価してくださっており、4.83という高い評価をいただいています。ユーザーからは「助けられた」「分かりやすくなった」「使いやすい」といった声も寄せられていて、私たちとしても励みになっています。

現代の子どもたちは、教科書、問題集、宿題、定期試験、模試に加えて、市販の参考書やYouTube、塾、デジタルドリルなど、選択肢があまりにも多い環境にあります。しかも教科書内容自体も増え、探究や課外活動もあり、これだけで手一杯だという感覚は、子どもたちと話していても強く感じます。
便利なものが多いがゆえに、逆にどれも中途半端になってしまう「消化不良」も起きています。私は本来、学校の考え抜かれたカリキュラムや教材、つまり手元にある教科書や問題集を「やりきる」ことが大切なのではないかと考えています。教育ICTは横に広げるのではなく、縦を伸ばす、つまり今ある学びを深める方向に注力すべきだ、というのが私の問題意識です。

一方、中高生は問題が理解できずにつまずいたとき、参考書をゼロからやり直したり、授業動画を見直したり、YouTubeを探したりするが、結局やることが増えてしまい、またやりきれずにつまずく……といった話も聞きます。
私は、やることを増やすよりも大事なのは「つまずいたその瞬間に手を差し伸べること」だと考えます。「分からない」と思ったその瞬間に助けがあれば、授業や勉強がもう少し楽になるのではないでしょうか。そうした発想から生まれたのが「Knock」です。
理数だけではなく英語・作文・添削にも対応
「Knock」は数学や理科に特にこだわっており、「ヒントのみ」「公式・定理の確認」「追加質問」「具体的な数字での説明」などを通じて、考える力を伸ばす工夫をちりばめています。

また、英語の長文和訳では、一段落・一文ごとに分け、音声を付けたり、日本語を隠したりすることができます。単語の意味調べや、文構造をAIと対話しながら理解することも可能です。さらに添削機能もあり、手書きでも写真撮影でスコアを出し、採点の中身を質問できます。


「Knock」がこだわる3つのポイント
私たちが「Knock」で大事にしているのは3点です。1つ目は、教育特化の生成AIであること。問題集レベルから難関大レベルまで、高い精度で解説する信頼感、日本の学習指導要領になじみのある用語で説明できることを重視しています。
2つ目は、思考力を引き出す設計です。すぐに答えを出すのではなく、ヒントやステップを通じて、わかるまで対話し、自分で考えることを促します。
3つ目は、生徒が自分から使いたいと思える使い心地です。スマホで写真を撮るだけ、手書きOK、タップ中心でストレスが少ない。こうした使いやすさが評価につながっていると考えています。
学校内での活用事例
学校内での導入も進んでいます。例えば、とある公立高校では、主に生徒の自習で活用されています。先生への質問を「忙しそう」だけでなく「恥ずかしい」「怖い」と感じて躊躇する生徒がいる中で「Knock」が活用され、予復習の質が上がり、授業の質も高まってきたという声をいただいています。
また、いわゆるアクティブラーニングに近い形で、自分の解き方とAIの解き方を比べたり、まわりの子と一緒に使ったりしている私立高校の事例もあります。数学が苦手な子の「一歩目」として使える、副担任のように教材研究にも使っている、といった声もありました。さらに、上位クラスと下位クラスの中間テストの平均点の差が「Knock」を使い始めてから縮まってきたという話も伺いました。前向きになれずにつまずいている子が、一旦つまずかず次に進めるようになる価値が大きいのではないか、と私は受け止めています。
先生の負荷を増やさないICTとしての設計
私たちがもう1つ大事にしているのは、先生の負荷を増やさないICTであることです。「Knock」には、配信やチェックといった運用がありません。先生が「これを使って勉強しなさい」と管理するものではなく、生徒が自分から使いたいと思えるICTにしたいと考えているからです。
データ提供などは相談があれば可能ですが、「ICTだからデータを見て管理する」方向に寄せすぎず、先生には本来的に見るべき「宿題が提出されているか」「テストで理解が進んでいるか」に注力してもらえる形を大切にしています。
渋谷区の挑戦~子どもと教員のウェルビーイングを目指して~
第4部に登壇したのは、渋谷区教育委員会の柳田俊氏。渋谷区が取り組んでいる生成AI活用や子どもたちと教員のウェルビーイングを実現する仕組みづくりについて伺いました。

【講師】
渋谷区教育委員会事務局教育指導課
統括指導主事
柳田 俊 氏
13年間小学校の教員として勤めた後、2021年から渋谷区教育委員会に指導主事として配属され、探究「シブヤ未来科」の立ち上げなどに従事。2025年から現職・統括指導主事となり、引き続き渋谷区教育委員会にて先進的な取り組みをリードしている。
渋谷区の「働き方改革」と教育大綱
渋谷区では、教育大綱を昨年2月に新しくし「ちがいを活かし合える学校」をつくること、そして子ども・先生・地域が一緒になって学校をつくり上げていくことを強調しています。
この教育大綱にもとづき、渋谷区の教育目標を整理し、各学校園では「7つの力」を子どもたちに身につけさせることを目標に日々の教育活動に取り組んでいます。教育委員会としても、教育目標にひもづく重点取り組みを5つ示し、現場で推進しています。



校務や授業づくりにおける生成AI活用
現状、渋谷区立の幼稚園・小学校・中学校では、教員には生成AIの活用を開放しています。一方で児童生徒については、用途が限られた一部、例えばAI英会話アプリなどにとどまり、生成AIを正面から子どもたちに使わせる段階にはまだ至っていません。
生成AIの導入を進めるにあたり、私たちが内部で議論したのは「教育のプロである教師だからこそできることは何か」という点でした。授業づくりや教材準備など、教育の核になる部分は教員が担うべき仕事です。一方で、文書作成や電話対応、クレーム対応、データ分析など、教員が主体的に関わる必要はあるものの、「ゼロから全部を教師が自力で抱え込む必要があるのか」という問いを立て、スクラップできる部分を探してきました。

そして、文科省ガイドラインにもとづき、子どもと向き合う時間を増やすことを目的に、現場主導でAI活用を本格化してきました。これにより、年間で約3000時間程度の業務削減に成功しています。

渋谷区の生成AI環境
渋谷区の学校には大きく2種類のAIが導入されています。1つはCopilotで、もう1つは渋谷区が用意したMicrosoft Azure AIを利用した生成AI環境です。こちらは教育委員会のスタッフがチューニングし、保護者向け資料作成、探究学習の指導案作成、アンケート等の分析など、用途に特化したAIを複数用意しています。
また、生成AIを「導入するだけ」では活用が進みにくいので、校務に役立つ53種類のプロンプトテンプレートも公開し、使い方を支える仕組みを整えています。

利用状況としては、毎月おおむね教職員の約3分の1が利用している状況です。さらに、導入後の意識変化の調査では、当初は利用経験が約半数だったところから、約8割まで上昇したという結果も明らかになっています。


探究「シブヤ未来科」の挑戦
探究「シブヤ未来科」とは、子どもたちに「7つの力」を身につけさせるため、令和6年度から始めた取り組みです。
文科省の「授業時数特例校制度」を活用し、主要教科の授業時数を1割ずつ削減し、その分を総合的な学習の時間に上乗せしました。現在、全小・中学校で導入しており、例として小学校6年生では総合的な学習の時間が70時間から155時間へ増えています。探究の時間は主に午後に設定し、子どもたちが主体的に取り組めるようにしました。
昨年度末のデータとして、97%の児童生徒がこの時間を「楽しい」と感じているという結果も出ています。

探究の時間を増やすと、「先生の負担が増えるのではないか」と心配されると思います。私自身もそこは課題だと捉えており、働き方改革の観点から、負担増を抑えながら探究を推進するための環境整備を進めているところです。

EdTechツールと探究AIで、探究の質を支える
探究の質を高め、同時に教員の負担を抑えるため、EdTechツールも導入しています。AI英会話アプリ「ELSA for Schools」は、スピーキングの学習機会として活用され、東京都のスピーキングテスト(ESAT-J)の結果上昇にもつながりました。AIドリルも導入し、子どもが自分のペースで学べるよう活用を進めています。

さらに、探究に特化したAIも導入し、探究カリキュラムやルーブリックの作成支援、探究の途中でつまずいた児童生徒への次の打ち手提案など、教員の伴走を支える役割を担っています。多くの教員が探究を体系的に学んできたわけではないため、AIに依存しすぎない前提のもとで、補完として有効に機能していると考えています。

子どもと教員のウェルビーイングを実現する仕組みづくり
また、渋谷区では3年前から子どもたちのウェルビーイング実現を目指し、教育データの活用を進めています。教員向けダッシュボードと児童生徒向けダッシュボードがあり、教員向けは、朝の気持ち、出欠、保健室来室、タブレット利用、学校生活やいじめに関するアンケート回答などを一元化してリアルタイムに見られる仕組みです。

心配な子がいれば個人シートで状況を把握でき、早期発見やきめ細やかな支援につなげることをねらっています。
児童生徒向けは「HACHI」アプリを小・中学生全員の端末に導入し、学習・生活の振り返りや日記、教員コメントなどを通じて、子どもが自分の学びを振り返り、次の挑戦につなげることをねらっています。

教育データの扱いには配慮が必要ですが、検索履歴から心配なものを取り出して指導する、といったネガティブな使い方だけではなく、子どもの良いところや変化を見取り、会話のきっかけにしたり、保護者面談で活用したりすることで、一人ひとりの個性や可能性を伸ばす手だてにしています。
端末環境については、ネットワーク分離を必要としない、認証によるアクセス制限を前提とした構成を実現し、ほぼフルクラウドで運用しています。教員端末も、授業用・校務用に分けるのではなく、1台で完結できる一体型としており、高い評価につながっていると認識しています。

また、校外学習実施届など、紙でまわして交換便で送る業務をデジタル決裁でシームレスに完了できるようにするなど、業務フローを見直しながらデジタル化・ペーパーレス化を進めているところです。
渋谷区では、このように、生成AIや校務DXによって業務を効率化し、探究「シブヤ未来科」を全校で推進しつつ、教育データとダッシュボードでウェルビーイングの実現を支える仕組みを整えてきました。こうした取り組みの根底には、子ども主体の学校づくり、そして先生も楽しく働ける学校を目指すという考え方があります。働き方改革は「働かない改革」ではなく、先生が楽しく働けるようにする、真の働き方改革なのです。
児童が興味を持つ!成果が分かる!~「ベジチェック®」を活用した行動変容を促す新しい食育の提案~
第5部に登壇したのは、カゴメ株式会社の信田幸大氏。推定野菜摂取量がわかるセンサー「ベジチェック®」の紹介を始め、活用事例や成果、導入方法について教えていただきました。

【講師】
カゴメ株式会社
ウェルビーイング事業部 課長
大東文化大学 スポーツ健康科学部 非常勤講師
信田 幸大 氏
2003年カゴメ株式会社入社。乳酸菌が人の健康に与える影響や、時間栄養学に関する研究に従事した後、2016年から人の食行動、健康行動に関する研究を推進。2018年から行動変容理論にもとづく健康サービスの企画開発や、サービスの効果検証を担当。2024年から大東文化大学にて「健康マネジメント論」を指導。
カゴメが健康事業に挑む理由
カゴメがなぜ健康サービスに取り組んでいるのか、不思議に思われる方もいるかもしれません。私たちは「野菜を通じて人々の健康に貢献する会社」でありたいと考えています。実際、日本で1年間に消費されている緑黄色野菜のうち、およそ2割はカゴメを通じて提供されています。

では、日本人は実際にどれくらい野菜を食べているのでしょうか。厚生労働省では、1日に350gの野菜摂取を目標としています。しかし、国民健康・栄養調査を見ると、日本人の平均的な野菜摂取量は約270gにとどまっており、目標が定められて以降、一度も350gに達したことはありません。
カゴメはこれまで、野菜を加工し、手に取りやすい価格で全国どこでも入手できる形で提供してきました。しかし、それだけでは日本の食生活の現状を変えることは難しい——そこで、2018年に健康サービス事業のグループを立ち上げ、食生活に対する意識や行動そのものを変えていく「健康サービス」を提供していきたいと考えました。
「ベジチェック®」とは
日本人の野菜摂取量が増えない理由の1つとして、「自分がどれくらい野菜を食べているのかを把握できていない」ことがあげられます。野菜を食べたほうが良いことや、目標量・平均値は知られていても、自分が今どこにいるのかを知る機会は、意外とありません。また、食育の現場でも、「取り組んだ結果どうなったのか」が見えにくいという課題がありました。
そこで誕生したのが、「ベジチェック®」です。ベジチェックは、手のひらを黒いセンサーに当てて測定ボタンを押すだけで、20~30秒ほどで、過去およそ1カ月間の野菜摂取状況を推定します。

数値で成果を示すことには、大きく2つの効果があります。1つ目は、行動に対する納得感や自己効力感の醸成です。野菜は多少不足していても不定愁訴が起こりにくく、食べても食べなくても体感的な変化が分かりにくい食品です。しかし、センサーで自分の体を測定し、数値として示されることで、「野菜が自分の体に影響している」という納得感が生まれます。さらに、以前より数値が上がったという結果が、行動を続ける自信につながります。
2つ目は、モデリング効果です。自分自身の数値が変わらなくても、クラスメイトの数値が変化する様子を見ることで、「自分もやってみよう」という気持ちが生まれ、将来的な行動変容につながります。
「ベジチェック®」を活用した食育事業モデル
この考え方をもとに、町田市の学校栄養教諭の先生方、教育委員会の皆さんと連携し、どの学校でも実施できる食育授業モデルを共同開発しました。

カゴメはベジチェックを教育委員会にレンタルし、教育委員会が各学校に配備。授業は小学校の先生方が指導案に沿って実施し、あわせて保護者への情報提供も行います。もちろん、導入当初は先生方の負担を減らすため、カゴメが全面的にサポートしました。
授業は大きく二部構成です。1回目の授業では事前にベジチェックを測定し、自分の食生活の状態を知ります。その上で、野菜の役割や基礎知識を学び、改善目標を立てるのです。そして、約1カ月後に2回目の測定を行い、目標に対してできたことや難しかったことを振り返ります。失敗の原因を考え、再度目標を立て直すことで、プロセスそのものを評価するという流れです。
実際、町田市のモデル校で4・5年生を対象に実施したところ、約7割の児童で2回目の測定値が上昇しました。また、アンケートでは野菜摂取への意識が高まり、「野菜の大切さに気づいた」「ゲーム感覚で数値を上げたい」といった声が多く寄せられました。家庭へのアンケートでも、約6割の家庭で「家族で野菜の話をした」「野菜をもっと食べたいという声があった」といった変化が見られました。

保護者も巻き込んだ食育事業
現在は豊橋市で、学校での授業とあわせて近隣のスーパーにベジチェックを設置し、保護者にも測定してもらう取り組みを行っています。測定の結果、「野菜摂取量が足りない」とわかったときに、その場で野菜を購入できる環境を整えることで、行動につなげる工夫も広がっています。

こうした授業モデルは、導入から展開までをカゴメがサポートしています。大切なのは、町田市のモデルをそのまま導入するのではなく、各自治体の状況に合わせて改善していくこと。ご興味があれば、ぜひお声がけください。















