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【セミナーレポート】中編-⾃治体DX⼈材の必要性と育成ノウハウ~地方創生ベンチャーサミット2022~

熱意ある地方創生ベンチャー連合およびスタートアップ都市推進協議会が毎年共催する「地方創生ベンチャーサミット」。地方創生の流れをさらに加速化させるために、国・⾃治体・⺠間事業者それぞれの⽴場から地⽅創⽣に対する現状や課題の共有、今後に期待される新たな事例の発信や交流を行っている。

今年は「官民連携」をテーマに、2022年3月6日に『地⽅創⽣ベンチャーサミット2022 supported by KDDI 〜官⺠連携で「地⽅創⽣」をリードせよ!〜』が開催された。本サミット当日の模様を、全7回に分けてレポートする。

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基調講演「これからの地方創生」
セッション1「ここだから学べる! ⾃治体のドアノックの⽅法論」
セッション2「テクノロジーで福祉をアップデート!」
セッション3「リノベーション×官⺠連携で実現する地⽅創⽣」
セッション4「さよなら『申請主義』 ⾃治体⼿続きはベンチャーがDXする時代」
セッション5「⾃治体DX⼈材の必要性と育成ノウハウ」 ←今回はここ
セッション6「逆境を越えろ! V字回復した地⽅創⽣・ベンチャー企業」
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[提供]一般社団法人 熱意ある地方創生ベンチャー連合

セッション5「⾃治体DX⼈材の必要性と育成ノウハウ」

「デジタル⽥園都市」という標語が使われるようになり、いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)の流れは確実に⾃治体にまで押し寄せています。肝⼼なのは、職員にただ単にICTのスキルがあれば良いというわけではなく、データを分析し政策に活かすことができるようにならなければいけません。

しかし、⾃治体の情報部⾨はかつては企画関連部署にありましたが、今では保守運⽤部⾨でITベンダーの⾔うがままになってしまっているという事例もあるようです。そこでこのセッションでは、改めてデジタル⼈材の必要性を問い直し、その育成のノウハウを探っていきます。
 

[登壇者]
鈴⽊ 康友 氏(浜松市⻑)
宇佐⾒ 典正 氏(KDDI株式会社 理事 経営戦略本部 副本部⻑)
⾼橋 範光 氏(株式会社ディジタルグロースアカデミア 代表取締役社⻑)
吉⽥ 雄⼈ 氏(⼀般社団法⼈熱意ある地⽅創⽣ベンチャー連合 代表理事)


※本記事は前・中・後編の中編です。
前編はこちら
後編はこちら

 

吉田氏:ここからは、DX人材の必要性と具体的な育成ノウハウについての話を進めていければと思います。まず、鈴木市長はそもそも自治体DXの必要性をどのように感じていますか?

鈴木氏:複雑化する行政課題に対応するには、実はデジタルはものすごい武器になるんですよ。私の大きな問題意識は、人口減少と高齢化でコミュニティがどんどん崩壊していっていることです。これを立て直してサステナブルな社会を築くためには共助型の社会をつくっていかなければいけない。そのために鍵になるのが最先端技術と規制改革ですね。これらを組み合わせると色んな課題を解決できると思います。

鈴木氏:例えば、浜松市はコロナ禍で「Foodelix (フーデリックス)」というデリバリーのプラットフォームを官民連携でつくったんですね。これが実は高齢者の買い物シーンに使えることが分かったんです。すでに色んなママさんたちのNPOが「手伝います」と言ってくれています。例えばママさんは買い物に行くわけだから、そのついでに高齢者の買い物をやってあげると。

鈴木氏:でも、技術的には全く問題ないんだけど、運輸局から待ったがかかったんですね。買い物を手伝うのは貨物運送業法に抵触するから、ママさんたち全員に運送業者になってもらって、車も全て青ナンバーにしてくださいと言うんです。技術×規制改革で色んな社会課題が解決できる。デジタルは目的ではなく手段なので、そういうものを使いこなせる行政職員を育てていくことがこれからすごく大事になってくると思います。

吉田氏:コロナ禍と紐づけて、ただ単にお金を配るだけじゃなくて、デジタルを使うとこんな配り方ができるというお話もご紹介いただいてよろしいですか?

鈴木氏:まずコロナ禍でやるのは一律でお金を配ること。某市が飲食店に一律10万円を配っていて、これは約4億円かかるんですが、お店が10万円をもらって立ち直ると思いますか?だけど行政的には「何かやった」という感じがあり、これが今までの行政の常識とか固定観念です。

鈴木氏:でも、浜松市はそういう無駄なお金は使わず、経済波及効果の大きいことをやろうと思って始めたのが「飲食代1億円キャッシュバックキャンペーン」でした。毎日200組、上限5万円まで抽選で飲食代をキャッシュバックする。最初は「不公平じゃないか」など批判も結構ありました。レシートと参加券をスマホで撮って応募すると、その日のうちに抽選して翌日にはお金が振り込まれる。これは飲食店にも市民にも喜ばれました。

鈴木氏:1億円キャッシュバックキャンペーンと言いながら、1回目で3500万円、2回目が5800万円、合わせて1億円に達していないんだけど、経済波及効果は15億円ありました。好評なので400組まで上限を設定し、昨年末に実施したんですけど、まだ4億まで達していないんですね。少ない投資でいかに経済波及効果をもたらすかという発想で色々なコロナ対策をやっています。公平じゃなきゃいけないから一律にお金を配ってしまう、今までの役所の発想を転換できるかどうか、そのためにデジタルを活用できると思います。

高橋氏:鈴木市長がおっしゃった通りで、コロナ対策に投じるのはデジタルを通して本当は小さい投資で済むはずなんですよ。本当はローリスクハイリターンなのがデジタルなはずなんですけど、リスクに入ってしまうとなかなか進まない。

鈴木氏:私がいつも言っているのが「グレーだったらやれ」。法律違反はダメですけど、グレーは何とかなるんですよ。

鈴木氏:また、社会課題解決にデジタルを使える別の例が医療なんです。田舎だと、先生が高齢化すると後継ぎがいないので診療所が閉院になっていく。そうすると医療過疎がどんどん出てくる。これを解決する手段として考えたのがオンライン診療とオンライン服薬指導です。これはどこでもやっていますよね。オンライン診療車を使って患者宅まで行き、タブレットで遠くの診療所とつないでオンライン診療とオンライン服薬指導をする。

鈴木氏:薬はドローンで正確に届けられます。ドローンのベンチャー企業が来てくれているんですが、ここは1カ所から全国へドローンを正確に飛ばせる技術を持っている会社です。目視していないとドローンを運行してはいけないという規制があるんですが、技術的には全部できるわけですよ。薬は重量と容量がだいたい決まっているので、ドローンで運ぶにはめちゃくち適合している。これが実用化できたら全国の医療過疎の地域が助かるわけなんです。これはデジタル×規制改革でできるもので、デジタル田園都市国家構想が目指すところだと思います。

宇佐見氏:通信業者としては、タブレットやスマホを使いこなしていただける方を増やしていくのがすごく大事だなと思いました。

宇佐見氏:鈴木市長にご質問です。ご自身のアイデアで色んな案件をどんどん進められていると思うんですが、組織の下の方からの「こんなアイデアどうですか?」というパターンで実現している案件もありますか?

鈴木氏:あります。もちろん私が考えついて「一緒にやるぞ」というのもありますけど、上がってきたアイデアは「グレーだったらいけ」と言っています。デジタルと関係ないですが、浜松市のある職員が「山奥でアワビの養殖をやりたいです」と言ってきたんですよ。いわゆる中山間地域の新しい仕事づくりになると。

鈴木氏:思いつきだったら追い返そうかなと思ったら、本人は1年間、自分でアワビを稚貝から育てていました。「私でもできるから、必ず山奥でアワビを養殖できます」と。ちょうど廃校になった給食センターがあったのでそこを使って、今はNPOが引き継いでアワビの陸上養殖をやっています。とにかく何でもやってみることが大事なんです。

吉田氏:鈴木さん、その事業にKDDIさんが関係しているのをご存じですか?

鈴木氏:すごく助けていただいています。水や温度の管理はすごく大変なんですよ。それをKDDIさんの最先端技術でちゃんと管理してもらっています。

吉田氏:KDDIの強みって通信事業者としてインフラを抑えているだけではなくて、ソリューションを持っていたり、ベンチャーに投資していたりというのがあると思うんですけど、自治体DXの文脈でも活用できるんでしょうか?

宇佐見氏:そうだと思います。携帯電話を使っていただいているので、そういうネットワークはもちろん、センサーなどにも通信機能が入っていまして、色んな使い方を各地で実証しています。ハードルは、実際のサービスで実装してサステナブルに続けていく、これを支える人材がいらっしゃるかどうか。本業と少し遠い感じがあるんですが、DXの文脈で、人材を各地でどんどん育てています。

吉田氏:どういう自治体DX人材が求められているのか、高橋さんにお答えいただければと思います。

高橋氏:浜松市のように市長からアイデアがバンバン出てくるようなところは、どんどん進めていけばいいと思うんですけど、やっぱりなかなか出てこないと思うんですよ。デジタルの可能性を十分に理解できていないところと、規制によって実現できないという話が先に出てきてしまうところをどう乗り越えるか。

高橋氏:私は研修で、半分ギャグなんですが「できないバツでDX」と言っています。「できないと言うこと」をなくそうという観点はすごく大事です。例えばAirbnbは、海外から来て、先にサービスを提供したわけじゃないですか。いかにグレーをうまく活用するか、デジタル田園都市国家構想やスマートシティにいかにチャレンジしていくかに気づいてもらうところが大事だなと思います。

高橋氏:もう1つが民間との連携。職員側としては民間との連携を積極的にやっていこうと話して、事例はだいぶ増えてきている中、どうしても「市の中で」という話になりがちだと思うんですが、どんどん外と連携した方がいい。良いノウハウが外にあるので、それらを活かして取り込んで自治体として昇華させていく。そういった可能性をちゃんと考えられる人が自治体DX人材なのかなと。

吉田氏:もう少し踏み込んで、どういうスキルが必要ですか?

高橋氏:今の話って実は、デジタルの活用の本質であって、デジタルをつくれるスキルじゃないんですよ。AIがつくれるといった人材も必要なんですよ。実際に自治体DXを進めていく中ではすごく大事なんです。

高橋氏:でも、それ以上に自分がまちを変えていきたいという熱意のある人がリードしていくので、そういう変革人材が必要であって、資格とかそういうことではないと思うんですね。スキルセットの前にマインドセットですね。ただ、デジタルのことを何も分かっていない、「変えるぞ」としか言っていない人はさすがにまずいので、しっかり勉強してもらうことをデジタルリテラシーとして広く普及させていこうとしています。

鈴木氏:我々もかじるくらいやらなきゃいけない。ZoomだけでなくSlackもやれるとか。

吉田氏:ご自身が人事評価する際に、DX人材あるいはそういうマインドを持った人材を評価していく観点はありますか?

鈴木氏:「こういうのをやるぞ」と言うと面白がって一緒にやってくれる職員さんもいるんですよ。そういう人が集まってくる。

吉田氏:集まってきますか?

鈴木氏:「この人は仕事ができるな」とか分かるじゃないですか。そういう人たちと一緒に仕事をする。うちは5000人以上の職員さんがいますけど、5000人はやっぱり把握できないので、若手の人たちと「今度これをやろう」と仕事をしています。

吉田氏:参考までにDX絡みで「この人に話を振れば大丈夫だな」というのは5000人のうち何人くらいいるんですか?

鈴木氏:今はデジタル・スマートシティ推進本部をつくっていますから、そこにいる職員は頼もしいです。

後編に続く


⼀般社団法⼈熱意ある地⽅創⽣ベンチャー連合とは

ベンチャー企業のもつイノベーティブなサービスにより地域課題解決や地域事業の⽣産性を上げ、持続的な地域の経済発展に貢献することを⽬的として2015年より活動開始。現在約60社のベンチャー企業らが参画しています。地⽅創⽣分野で活躍するキーパーソンを招いた勉強会や、本サミット等を通じ、地⽅⾃治体や⺠間事業者等に対し広く情報発信を⾏い、地⽅創⽣実現のための機運醸成を図る取り組みを⾏っております。

熱意ある地方創生ベンチャー連合

スタートアップ都市推進協議会とは

起業や新たな事業などの「スタートアップ」は、経済成⻑を実現し、⼤きな雇⽤創出効果をもたらすとともに、暮らしの中に新たな価値を創造するものであり、⽇本の再興には不可⽋なものです。⽇本再興への期待が⾼まりつつある今、スタートアップ都市づくりに先進的に取り組む⾃治体が地域の個性を⽣かしたロールモデルとなり、経済関係団体とともに連携し、⽇本全体をチャレンジが評価される国に変えていくことを⽬指して協議会を設⽴しました。

スタートアップ都市推進協議会

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