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前編|行革甲子園2022、結果発表!地方自治体の甲子園をレポート

地方自治体が、永遠のテーマとして取り組み続ける行政改革=行革。

各自治体がそれぞれの立場で取り組みを続けているが、そのアイデアやノウハウを共有して新たな行革推進につなげることを目的に、愛媛県が主催しているのが「行革甲子園」だ。平成24年にスタートした行革甲子園は、今年で6回目。全国33都道府県・68市町から寄せられた85事例から、1次審査を通過した8団体が本会場に集結し、プレゼンテーションを繰り広げた。さらに今回は、台湾デジタル担当大臣のオードリー・タン氏による特別講演も行われた。

前編では、大会ステージに立った8団体のうち前半4団体、「群馬県前橋市」「山形県山形市」「神奈川県座間市」「福島県いわき市」のプレゼンテーションの模様をレポートする。

終わりなき行政改革を楽しくやろうという想いで始まった「行革甲子園」

2022年8月26日、愛媛県・松山市市民会館。会場に実際の甲子園さながらのサイレンが鳴り響き、いよいよ行革甲子園が幕をあげる。今大会のサブタイトルは、「~創・効・種で魅せる!地方公務員によるもう一つの甲子園~」。野球でいう「走・攻・守」を、「創…創意工夫あふれる取り組み」「効…費用対効果の高い取り組み」「種…ほかにアイデアの種を提供する取り組み」になぞらえたものだ。

冒頭あいさつに立った中村時広 愛媛県知事は、「行政改革は、削る・切る・やめるという後ろ向きのイメージが強い。それでは前向きのアイデアが出てこないので、『楽しく行政改革をやろう』と考えた」と行革甲子園の開催に至るエピソードを語った。

つづいて、前回グランプリ受賞の福岡県苅田町から表彰旗が返還され、いよいよ行革甲子園2022のスタートとなった。
 

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今回の審査員は、一般財団法人地域活性化センター理事長・椎川 忍氏、東洋大学教授・沼尾 波子氏、愛媛大学准教授・太田 響子氏、有限責任監査法人トーマツパートナー・小室 将雄氏、株式会社未来戦略研究所代表取締役・根本 昌彦氏と、公務のため途中退席となった中村 時広愛媛県知事の代理として、愛媛県庁総務部長・東野 政隆氏が務める。

 

群馬・前橋市
「私たちは変われることを体験した」

トップバッターは群馬県前橋市。群馬県の県庁所在地で、日本百名山の一つ・赤城山のすそ野に広がる人口33万2,000人のまち。令和3年度「デジタルの日奨励賞」を受賞している。

発表に立ったのは、情報政策課長・岡田さんと同課主任・森尻さんだ。

 

【エントリー事例】
印刷BPO ~職員を紙作業から解放する~

※引用:行革甲子園2022特設サイト

前橋市は現在、今回取り上げる印刷BPOの土台となった自治体クラウドや自治体行政スマートプロジェクトに取り組んでいるが、これらは業者からの提案ではなく、全て自治体側が日々の業務の中から発案されたもの。そのため、実施に必要な情報は全て提供できるとのことだ。

さて、本題の印刷BPOだ。現在、国で作成している自治体情報システム標準化の仕様書には、市民税・資産税・国民健康保険税・介護保険料などの納税通知書が、A4縦の様式で定められている。

しかし、実際に現場で使われているのは縦4.5×横8.5インチの様式が大多数だ。これを、令和7年までに「標準化」で定められたA4縦サイズに改めなければいけない。これは、全国の地方自治体が共通して直面している課題だ。

印刷BPOでは、職員は元となるデータをPC上で登録するだけ。そのあと、送付物の作成から郵便局に差し出すまでの作業を、全て外部に業務委託し、一括して行っている。これらの一貫・一括した外部業務委託を複数自治体(前橋市と伊勢崎市)で共同して行うのは、地方自治体としては初の取り組みだ。

この結果、64の帳票にかかる2市合計・5年間の経費総額を、6億6,224万円減らすことに成功した。しかもそれまで職員が行っていた用紙や封筒の発注、在庫管理、発送作業などを減らし、目に見えない経費の削減にも成功している。

BPO事業の勘所は、「共同・一括」「共通・同時」「一貫・長期」。1つの自治体では数量が集まらないためスケールメリットが生まれにくく、十分な経費節減の効果が得られない。また、複数の帳票の様式を共通化する工夫を行う、同時期に発注することでコストを下げる。さらに、業者と長期間の契約を結ぶことで、安定して事業を行うことができるのだ。

また、BPOに事業委託を行うにあたって、これまで2市別々だった帳票の様式を統一。さらにユニバーサルデザインの発想にもとづいて住民に必要な情報が伝わりやすくすることにも成功した。それまで使ってきた様式の変更には職員の心理的抵抗も大きかったという。

「正しく処理をする」から「正しいことを実行する」へとマインドセットをシフトした前橋市の取り組みは、市役所のDXから地域社会のDXへと進んでいくことを目指している。岡田さんは「私たちは変われることを体験しています」とプレゼンを締めくくった。


前橋市のエントリー事例詳細|「印刷BPO~職員を紙作業から解放する~」

 

山形県・山形市
「事例が少ない中でも、本質をとらえチャレンジした」

つづいての発表は山形県山形市。山形県の県庁所在地で、中核市に指定されている。豊かな自然と食文化に彩られた、24万4,000人のまちだ。

発表に立ったのは、総務部行政経営課行財政改革統括主幹・松沢さんと、教育委員会学校給食センター主幹・真木さんだ。

 

【エントリー事例】
全国初!連携中枢都市圏連携事業による広域炊飯施設の整備~共通課題をスピード解決~

※引用:行革甲子園2022特設サイト

4月5日にオープンした、山形広域炊飯施設。学校給食への米飯提供、米の消費拡大を目的とした大規模な炊飯施設だ。これまで山形市や近隣自治体の学校給食の米飯は、地元の民間事業者に委託して提供していたが、設備の老朽化に悩まされていた。

平成31年4月に山形市が中核市に移行したことで誕生した「山形連携中枢都市圏」では起業支援や観光、子育て支援など様々な分野で共同の取り組みが行われていたが、この炊飯施設も近隣の8市町で共同して建設に至った。これは全国的にも先進的な事例だという。

しかも、総工費10億円という大型施設の設置を含め、2年という驚異的なスピードで課題解決に至った。連携事業として実施したことで、建設には地域活性化事業債を活用することができ、約3.2億円の普通交付税措置を受け、また維持管理のための特別交付税措置を受けることで、8市町全体で年間約1000万円の経費削減につながった。建設費の90%を地方債で調達し、維持管理費の80%は特別交付税措置算定基礎に計上可能となっている。

さらに米飯購入費用も8市町全体で年間1,200万円の減額につながり、給食費の値上げをせずにおかずの充実を図ることができた。また、厳しい経営を迫られていた炊飯事業者も、協同組合を設立することで安定的な経営を実現することができた。

問題は、圏域内の学校給食の米飯に金属片などの異物混入が頻発したことからはじまった。原因は炊飯設備の老朽化。給食用の米飯を提供する米飯業者は、およそ45年前にはじまった米飯給食に対応するために炊飯設備を導入した。45年間、ほぼ連日のように稼働していたために設備は老朽化。早期の設備更新が必要となっていた。

炊飯業者は小規模な事業所が多く、少子化の影響もあって売り上げが減少している業者が多い。設備を新設するような大規模な投資は不可能だった。そこで、県学校給食会と炊飯事業者団体が、山形市に対して新たな炊飯工場の建設を要望したのだ。そこで山形市は、圏域内と各市町と共同で建設する方向で検討を開始。設置に高額の費用がかかる施設の共同整備は都市圏構想の本質的な目的の一つでありながら、事例が少ないと国から指摘があったこともあり、チャレンジしてみることになったという。

 

新たな炊飯施設の整備期間は、令和2年4月から令和4年3月までの2年間。異物混入の危険をなるべく早く取り除くため、10億円を超える施設としては異例の短期間での取り組みとなった。炊飯ラインは各市町の地元産米を炊き分けられるようにし、地元の米を食べてほしいという要望にも応えている。

新たな炊飯施設を用いた一食当たりの負担額は、従来の82.5円に対して86.8円。しかしここから普通交付税(4.3円)と特別交付税(3.2円)に相当する額を引くと、79.3円と大幅に減額することに成功した。また、炊飯業者がこの施設を利用してホテル・スーパー・飲食店などに提供する米飯を炊飯することを認め、目的外使用料を徴収することで各市町の負担金を軽減できた。

取り組みの効果としては、「1.連携事業としての取り組み」「2.施設の集約化」「3.施設の有効活用」の3点が挙げられる。

1.連携事業としての取り組みは、各市町の共通課題を2年間でスピード解決し、10億円規模の施設を建設したこと。地方財政措置の活用で、5.2億円の財源を確保できたこと。

2.施設の集約化では、各市町が独自に施設を整備した場合と比較して20年間で32億円の事業費を削減し、米飯給食の単価を3.2円削減したこと。

3.施設の有効活用では、米の消費拡大・地産地消に貢献し、炊飯事業者の安定経営に資すること。また年間の負担金を1,200万円削減し、令和4年度の負担金は0円に。

そのほか、各市町産米の炊き分けという要望に応えたこと。また配送用のトラックに各市町のゆるキャララッピングを施し、親しみやすさの向上にも成功した。


山形市のエントリー事例詳細|「全国初!連携中枢都市圏連携事業による広域炊飯施設の整備~共通課題をスピード解決~」

 

神奈川県・座間市
「業務効率化だけでなく、新しいチャレンジを行う組織へ生まれ変わった」

神奈川県座間市は、神奈川県中部の都市。かつて日産自動車の主力工場が所在し、現在は歴代の日産車が展示されている日産ヘリテージコレクションがある自動車のまち。人口は13万2,092人で、神奈川県内では4番目に高い人口密度を誇っている。

発表者は、環境対策部資源対策課課長・依田さんと同課班長・後藤さんだ。

 

【エントリー事例】
循環型社会実現に向けた 「廃棄物・資源物収集のDX」

※引用:行革甲子園2022特設サイト

昨年座間市は、「紙おむつリサイクル」で地方創生アイデアコンテスト(内閣府地方創生推進室主催)のグランプリを受賞した。このコンテストで、座間市は「行政は実証フィールドを提供し、民間事業者のテクノロジーを活用することでさらなるリサイクルを実現できる」と提言した。ここで活用されたテクノロジーは、小田急電鉄が提供する廃棄物収集DXソリューション「WOOMS」。これまで日のあたらなかった行政のごみ収集事業を、循環型社会形成のコアに変革しようというテクノロジーだ。

WOOMSは回収ルートを最適化して管理し、ごみ収集の検知や収集量・収集状況の管理を行う。この結果、新型コロナ対応で従来なら収集を中止していたような状況でも、通常の時間内に収集を完了することができたという。さらに、車両の運行・点検状況の管理、道路の破損や不法投棄を写真撮影し、GPSの位置情報つきで管理担当部門へ報告できる機能も備えている

2020年9月から実証実験をスタートし、21年1月には全車両にシステムを搭載して本運用。平均ごみ積載量の引き上げと運搬回数の大幅削減に成功した。車両ごとの平均積載量は11.6%増加、運搬回数は16.3%減少。焼却処理量は6.7%(1,410トン)減少した。また、危機管理部門と協力し、災害時の情報収集などの実証実験も行っている。

WOOMSの導入は業務の効率化だけではなく、硬直していたごみ収集の現場を再生させて意識改革を促し、自ら新しいチャレンジを行う強靭で柔軟な組織へと生まれ変わらせることにつながった。現場DXは、ICTツールによる業務の効率化と、職員の働きがいを実現することができた。

「ごみの収集に情報の収集を加えて走り続け、価値を加える。攻めの姿勢で効き目もバッチリ。地球を守る種をまく」とプレゼンを締めくくった依田さん。寸劇を交えたプレゼンはインパクトも抜群だった。

 

福島県・いわき市
「暮らしの安心を支えるため、今後を見据えたデジタル化を進めていく」

福島県いわき市は、福島県の東南端に位置する温暖な気候に恵まれた地域。東北地方有数の誘客数を誇るスパリゾートハワイアンズなどの観光地を持ち、全国から訪れる人も多い。人口は32万6,356人だ。

発表者はスマート社会推進課参事兼課長・松本さんと主査・吉田さんだ。

 

【エントリー事例】
いわき版MaaS推進プロジェクト「行政MaaS」~出張行政サービス「お出かけ市役所」の取り組み~

※引用:行革甲子園2022特設サイト

いわき市は人口減少が進み、公共交通利用者の減少や高齢ドライバー増加などの課題を抱えている。さらにいわき市は自動車分担率が76.6%と中核市の中ではトップを占める自動車社会。交通課題の解消は喫緊の課題となっている。その解決を目指すのが、いわき版MaaSなのだ。

いわき版MaaSには、観光用タクシー配車アプリを導入する「観光MaaS」、地元スーパーと連携した宅配サービスを目指す「おつかいMaaS」、出張行政サービスを実施する「行政MaaS」の3つの取り組みがある。それぞれ、ヒト・モノ・サービスの移動を行うもの。今回は、その中でも行政MaaSについて紹介する。

行政MaaSを実施する背景には、高齢者が行政サービスを提供する公共施設への移動手段を確保しにくくなっていることがある。いわき市が取り組んでいる行政MaaSは、遠隔相談や証明書類発行機能などを搭載した「マルチタスク車両」を活用し、出張行政サービス「お出かけ市役所」の実証実験を行うもの。

令和2年度から始まった実証実験では、マルチタスク車両は地区の集会場などを周回し、サービスを提供している。移動型の同一車両で複合型の行政サービスを提供するのは全国初。今年3月に発生した福島県沖地震に際しては、罹災証明書の交付なども行った。

実際の申請にあたっては、車両に乗車している職員が本人確認や申請書類内容確認を行い、内容を入力して送信。これを市役所庁舎にいる職員が確認し、証明書出力指示を行う。証明書はVPNを通じて安全に車両に転送され、出力された証明書を交付するという流れだ。

また、母子健康相談や特定保健指導、福祉相談や手話通訳相談などの相談業務も、マルチタスク車両を用いて行っている。

さらに、行政MaaSは防災面でも活用が期待されている。マルチタスク車両が発災後直ちに現地に出向くことで被災者のニーズを迅速かつ的確に把握し、現地対策事務所の代替機能を果たすことを想定。市の総合防災訓練にも参加している。

意外なところでは、中学生による模擬選挙にもマルチタスク車両が活用されている。市の選挙管理委員会とオンラインで接続し、選挙立会人に乗車してもらうなど実際の選挙と同じ手順で模擬選挙を実施。将来的に、実際にマルチタスク車両を選挙の移動投票所として利用するための実証実験も兼ねている。

利用者からは非常に好評を得ており、今後も生活利便性の向上につながるとともに、暮らしの安心を支える取り組みにつながることが期待されている。今後は提供サービスの拡充、実施エリアの拡大、申請手続きのデジタル化を進めることが必要となっている。さらに現在実証実験中のため、実際にサービス実装を見据えた準備にも取り組んでいく。

 



以上が、前半にステージに立った前橋市・山形市・座間市・いわき市の大会当日レポートである。

後編では、後半4団体の「大分県別府市」「栃木県茂木町」「鳥取県日南町」「愛媛県西予市」のプレゼンテーションの模様をレポートしていく。

後編|行革甲子園2022、結果発表!地方自治体の甲子園をレポート

 

【行革甲子園】全国の自治体の創意工夫あふれる取り組みを紹介! 記事一覧

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