2019-12-19(木曜日)
東京都 観光

アグリツーリズム、分散型の旅で地方のインバウンドは変わる

「観光公害」という言葉がある。増えすぎた観光客が地域の住民の暮らしを脅かすこと、また、交通量の増加が環境破壊につながることを指しており、日本の各地でも問題になりはじめているという。その観光公害に警鐘を鳴らすのが、日本各地で古民家再生や地方創生に取り組んでいる東洋文化研究者のアレックス・カーさんだ。

日本のインバウンドでは今、何が課題なのか。そして解決策とは?キャッシュレスとインバウンドを掛け合わせた切り口で地方創生に取り組むNIPPON Platform株式会社の創業者で海外事業部CEOの高木 純さんとアレックスさんの対談から探る。

※下記はジチタイワークス観光・インバウンド号Vol.3(2019年12月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
 [提供] NIPPON Platform株式会社

観光公害が起こるのは?官民の観光リテラシーが問われる

高木:最近京都を中心に観光公害が問題となってきています。解決策として民間でできることとはなんでしょうか。

カー:一つは商店街の意識を変えることでしょう。例えば、京都の台所といわれる「錦市場商店街」は古くからあるフレッシュマーケットで、アーケードも残されています。ただ、観光客が押し寄せたことで変化した部分もあります。ソフトクリームやお土産品など観光客向けの商品を並べる店が増えてくると、本来の商店街の良さがなくなってしまう。同じことがヨーロッパの観光地でも問題になっていて、オランダのアムステルダムでは条例で、旧市街でのソフトクリームやファンシーチーズ(土産用の飾りチーズ)の販売が全面的に禁止されました。インバウンドに合わせた規制緩和も必要ですが、一方で制限することも重要なのです。

高木:例えば、どのように規制をつくっていくべきでしょうか。

カー:観光客向けの店は昔からあるので、店自体が悪いことはありません。商店街がある一定の基準を設けるなど業者と業種を管理する、自分たちのコンセンサスをとることが大切です。地方には業者を決める協議会をつくっている商店街の事例もあります。観光公害の原因は、実は受け入れ体制にあるのです。観光客は必ず来ます。だから地元でコントロールしていく意識が必要です。

日本のインバウンドの現況は環境が整っていないのが課題

高木:カーさんの書籍の中に、「アグリツーリズム(農村民泊)」と「アルベルゴ・ディフーゾ(分散型の宿)」という手法が出てきます。私はこの方法こそが、インバウンドに必要だと思っています。

カー:アグリツーリズムは取り組む自治体が増えてきました。最近注目のアルベルゴ・ディフーゾは、宿泊はここ、土産物を買うのはここ、食事をするのは……と、地域全体で観光客を受け入れる体制を指しています。ただ、どちらにしても、地方都市が準備できていないのが課題です。現実として香港人や台湾人、タイ人は、日本の有名観光地だけでなく、自然が美しい場所や、寺院、古民家といった独自の魅力がある場所に足を伸ばしています。外国人が興味を持つ古民家を宿泊場所として整備することも大切ですし、規制を緩和することも必要でしょう。現状、民泊は法律で宿泊日数に制限があります。特区をとり、規制緩和を提案すれば変えられるのに、ほとんどの自治体が変えようとしていません。民泊の開発が遅れると、インバウンドの誘致が滞ってしまいます。

高木:もう一つ、ゼロドルツーリズムも課題ですよね。

カー:ええ。年間で何万人、何百万人と観光客が来ていても、見学をして帰るだけだと、観光客数は増えても観光消費額が増えません。むしろ、環境公害を引き起こすことだってあります。

高木:そこで私たちは、日本の各地にデジタルポイントをつくれないかと考えています。レストラン、土産物店、宿泊場所、体験スポットにデジタルポイントとなるデジタル端末を置いておけば、そのデジタルポイントを回遊して旅ができるという世界観です。また、旅マエに現地の情報を発信することで、「その観光スポットやレストランに行く」「陶器作りや書道を習いに行く」という目的が生まれるでしょう。

カー:それはいいですね。そのデジタルポイントでキャッシュレス決済までできるのであれば、日本の旅行がしやすくなります。私が外国人観光客を案内するときは事前に「ここでどのくらいの現金が必要です」と伝えるんです。すると、「キャッシュレス決済ができないならこのレストランに行かなくてもいい」と言われることもあるんですよ。

高木:カーさんの考える地方創生とかけあわせれば、もっとインバウンドを集客できる可能性があると感じます。

インバウンド対策のアイデア

01 規制と規制緩和を同時に考える

現状の規制を緩和し、インバウンドを呼び込みやすい環境を整えていくことは重要だ。一方で、商店街のような地域に根ざして続いてきたものの「価値」を認識して、良さを変えないように規制することも必要だ。

02 観光客受け入れ施設は本当に必要かを考える

ツアーバスで訪れる大量の観光客をカバーする、規模の大きな駐車場やトイレはその観光スポットのある自治体が負担することになる。しかし、ツアー客を受け入れる体制を整えるとゼロドルツーリズムを推進することに繋がる可能性もある。

03 ゼロドルツーリズムを回避

地元にとって大切なのは、観光客数よりも観光消費額。ゼロドルツーリズムを回避するために、現地の魅力を発信することと、観光スポットやレストラン、宿泊施設などの受け入れ体制が必要だ。また、それらの情報発信も大切である。

04 拝観料や入村料を検討する

年間で多くの観光客を受け入れている自治体は、拝観料や入山料、入村料などを検討するべき。「本当にそこに行きたい」と思っている人たちが来てくれ、観光公害、環境破壊を回避できる。一時的に観光客が減ったとしても良い、と腹をくくることが大切。

05 古民家の整備

外国人観光客から見たら、かやぶき屋根の古民家や、日本の伝統的な家屋はとても魅力的に見えている。しかし、滞在場所としては不便が多い。風呂・トイレの整備、居住空間の快適化など、手を加えればインバウンドの拠点として活用できる。国や自治体からの投資も必要。

06 デジタルポイントを置く

キャッシュレス決済や観光情報案内などができるデジタル端末を置くことで、仮に無人であっても、観光客対応ができる。また、デジタルポイントが旅の目的地になる可能性もある。

プロフィール

アレックス・カー

東洋文化研究者。1952年、米メリーランド州生まれ。バンコクと京都を拠点に東洋文化に関する講演や執筆活動を手がける。今年3月に共著で『観光亡国論』(中央公論新社)を刊行した。

高木 純  ●  たかぎ じゅん

1976年生まれ。京都出身、台湾在住。起業家、投資家。日本人向け、訪日外国人向けに対応した決済や店舗への集客、売上アップなどキャッシュレスとインバウンドをかけ合わせたソリューションサービスを提供。

おすすめ記事